リベラと名付けられた少女は、ゆっくりと視線を辺りに滑らせた。
色々な色をした液体がコポコポと音を立てている。光と言う光がないその部屋は、酷く物悲しさを覚えさせた。



そして、もう一度目の前にいる男に視線を戻す。

細い腕。青白い生気の無い顔色。木の枝のような指を微かに震わせながら自分に向けてそれを差し出している。


これは、手を取れということだろうか。

ゆっくりと足を動かす。思いのほかすんなりと歩くことができた。

何故だろう。昔からこうして歩いていたみたいだ。自分は、今生み出されたばかりなのに。と小さな疑問を抱きつつもリベラはティズモの手を取る。





骨ばったその手は、とても冷たく本当に生きているのかと疑ってしまったほどだ。

自分の知っている人間の手は、もっと温かい―――そう思って、リベラは眉を寄せる。何故?こんな事を思うのだろう。


自分は今、生まれたばかりで、この男以外の人間など目にしたことはないはずなのに。

そうだ。他にもおかしな点はある。ここにある物の名、たとえばガラスだとか金属だとか。そういう物の名を自分はどこで知ったのだろう。



まるで、自分の中にもう一人の自分が居る様な気がして。それが少し薄気味悪くて肩を震わせる。


それを見たティズモは私が何かに脅えているのと勘違いしたのか、薄く笑って大丈夫だと呟く。







「大丈夫。怖いものは何もないよ。さぁリベラ。行こうか」







つないだ手をひかれて、リベラは初めて実験室の外に出た。


鉄とコンクリートで覆われた肌寒い廊下をひたひたと濡れている裸の足で歩く。


冷たかったが、握っている男の手から伝わってくるほんの少しの温もりがそれを気にならなくしてくれていた。




しばらく歩くと、不意に視界が開けた。さぁと風が頬を撫でていく。

風に遊ばれた長い漆黒の髪をリベラが耳にかけると、何処からともなく綺麗な笛の音が聞こえてきた。


思わずその音に耳をすまして聴き入っているとティズモがあぁといった風に教えてくれた。








「これは、近くに住んでいる少年が吹いているんだ。とても綺麗な音色だろう?」








コクリとリベラは頷いてまた耳をすます。

リベラはただ音色だけに感嘆して笛の音に聞き入っていたわけではない。


何故か、とても温かい。家族の温もりを思わせるような優しい音色が、自分の奥にすぅっとしみわたっていくようだ。それに、どこか懐かしい。








「さ、笛の音はこれくらいにして。行こう」








ここに来れば、またいつでも聞くことができるから。と言うティズモの言葉にリベラは安堵しておとなしく後をついていく。






リベラとティズモがその場を離れた後も笛の音は、辺りに響き渡っていた。



温かな家族の温もり、そしてわずかな悲しみをその音色にのせて……











世界幸福な君へ


―――耳に残る旋律が意味するものは



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