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始めに、エデンの園に入り込んだ動物は猿だった。人間ほどとはいかないものの、かつてとは比べ物にならないほどの強大な知恵を有し、それに加えて恐ろしいほどの腕力を持っていた。
そして、巨大なドームに作られたある欠陥を見つけたのだ。すべてから人類を守る巨大なドーム。それは今や世界の四分の三ほどを覆い尽くしている。そして、そのドームの中に最初からすべての人間がいたのではない。
時が経つにつれて、少しずつ少しずつ移り住んでいったのだ。
ならば、と猿は考える。どこかに入り口があるはずだ。それこそ、簡単に入れるわけはないがどこかに必ず。
そして見つけた。巨大な鉄の小さな綻びを。外からあけるために作られたのだろう。いくつもの暗号のような文字が並ぶパネルを猿は静かに見つめる。そして、ゆっくりとそのパネルに指で触れていく。
人の言葉を理解するようになった猿。こうして、人類と動物たちを隔てていた垣根は取り払われた。
外≠ノいた動物たちが中≠ノ全て入り込む。そして、彼らは再び扉を閉じた。
人間が中≠ゥら外≠ヨ逃げ出せぬようにと。
ドームの扉が一時的に開かれたという事実は、すぐにレヴァトゥーラに知らせられた。四代目レヴァトゥーラは静かにだが威厳のこもった声で臣下に命じた。
「捕らえ、始末しろ」
短い言葉だが、その中には大きな憤りがある。そして、怒り。今更、動物などが何をしようというのか。世界を救った、自分の祖先、初代レヴァトゥーラの作ったこの園を汚い足で踏み荒らそうなど許せるはずがない。
こうして、直ちに集められた科学者たち。代表であろう、一番年長の科学者が一歩前へ出ると厳かに口を開いた。
「申し上げます。我らが神よ。奴らを捉えることも、殺すことも、今の我らには不可能に御座います…」
「何?」
科学者の行った信じられない言葉。気に入らない。どういうことだ。怒りをにじませた声音でレヴァトゥーラが訪ねると、科学者は一度息をついてから話し始める。
「全てを撃ち抜く銃を作ろうとも、今の人の腕はその衝撃に耐えられませぬ。全てを貫く強靭な剣を作ろうとも、それを振るう人間が降りませぬ」
「ならば、戦車を作ればいい。無人で動く戦車をな。そうすれば、奴らなど一夜にして滅ぼせるであろう」
そういった、レヴァトゥーレ。しかし、科学者は静かに首を振る。
「今、我らが戦車を作ればその威力はこのドームを突き破るほどの威力になりましょう。お恥ずかしい話、加減ができぬのです」
彼らは、科学者。彼らにとってドームを壊すことなく動物たちを捉える戦車を作れと言うのは、象の足の下に生卵を置いて踏みつぶさぬ程度に触れろと言うようなもの。
それに、と科学者はここが一番答えにくいのだがなと心の中で思う。そして、こう続けた。
「この平穏に浸った園の中で、あの化け物たちに立ち向かおうというものが何処におりましょう」
人間は、目覚ましい科学力の発展の代償に人間が本来持ちうる力を無くしていた。
園の中に存在するのはスポーツのみ。
屈強な若者はいても、戦うことはできない。戦うことを恐れるからだ。
武道では本当に人を傷つけることはしない。
いかなるスポーツでもそれは普通のことだった。
あの化け物を前にすれば、腰を抜かして、無駄死にするのが落ちだ。
そこで、政府はレヴァトゥーラは打ち出した。誰もが度肝を抜いたその考え。
「無いなら作ればいい」
初代の言った言葉通りの政策は、各地に散らばる科学者たちをかき集め兵士≠作り上げるというものだった。
ラピスラズりの後悔―――その選択が招くは幸か不幸か
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