天に上る堕天使




暗い暗い部屋に閉じ込められて、何度も何度も体中を切り裂かれた。

ある時は腹を、胸を、腕を、脚を。

でも、傷は残らない。時に忘れ去られた私は、この体でさえも時(キズ)を刻むことはない。

自分が人間ではないという事など、とうに知っていた。何度も何度も、実験を繰り返されれば嫌でも自覚するというものだ。


切り裂いても傷の残らないからだ。致死量の毒を服用させられても正常に動くからだ。そして、傷つけられるたびにふつふつとわきあがる、もう一人のジブン


ジブンはとても冷酷で何より残虐。まるで幼子のように無邪気に人を殺める。


私の中の血が、教えてくれる。

お前は、ボンゴレを守るために生まれたのだと。

その時に、私は初めて憎悪という感情の本質を知った気がした。

胸の内から湧き上がる、どす黒い感情。すべてを黒く塗りつぶし、ジブンはそれを嬉しそうに見つめていた。


憎悪の対象、それは裏切り。


信じていた、ボンゴレ。それに裏切られたという事実が、抑えようのない憎悪を呼んだ。でも、私は知らない。どうすれば、この感情がおさまるのかを。


すると、ジブンが教えてくれた。





――――復讐だよ。フクシュウ。お前を貶めた奴らに復讐をすればいい……。




その瞬間、カチリと胸の奥で何かがはまるような音が気がした。あぁ、そうか。フクシュウ、すればいいのか。

ボンゴレに対する憎悪だけが渦巻く脳内で、その思考を止めるものなどありはしない。


でも、どうやって?


――――そうだな、僕にいい考えがある……















天使は、ある一つの悪によって貶められ堕天使となった。


堕天使は、悪が己の信じていた者たちだと思った。


堕天使は、復讐を望んだ。


堕天使は、己の中の憎悪の記憶を消した。






憎悪の記憶をけし、堕天使は天使だった頃のおのれに戻り天へ上る。


更に深い闇へと身を沈めるために。




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