光は吐息一つで掻き消える
それからは、毎日が同じことの繰り返し。
異様な色をした液体の入ったガラス瓶の立ち並ぶ薬品棚に、見たこともない機械類の数々。そんなもので埋め尽くされた部屋に連れて行かれてベッドの上に放り投げられる。
体の中に何かを入れられて、それでも私は注射針の痛みに眉をひそめる。
そのたびにラルドの表情は醜くて冷たい笑みを浮かべる。
「あぁ、やはりあなたは素晴らしい……」
何かに取りつかれたように言うラルドは、ラルドではなかった。かつて、自分の気にかけてくれ自分が慕ったその人はもうそこには居なかった。
いや、最初から優しかったラルドの方が偽物だったのかもしれない。私を、この能力を利用するために、仮面をかぶって生きていたのかもしれない。
「どうして、最初からこれが目的だったの……?」
抵抗する、という選択肢はもうどこかへ捨ててしまった。だって、私がこう問いかけるたびにラルドは醜悪な笑みと陶酔しきった声音でこういうのだから。
「えぇそうです。そもそも、ボンゴレが貴方を迎え入れたのも、これが目的だったのですよ」
最初から、貴方の持つ奇異な力に目をつけて……全く、プリーモも人が悪い……
同じ言葉を繰り返す。
もしかしたらと、僅かな希望を胸に問いかけ変わらぬ答えを聞くたびにラピスの心から何かが消えていく。
パタリ、パタリ。
行き場を失った涙は、ただただ無感情に流れ続ける。
表情を変えずに涙を流しながら、虚空を見つめるラピスは畏怖の念さえ抱くほどに美しく、まるで精巧に作られた人形が雨に打たれているようで。
「……………もう、いい」
ガチャリ。
いつもの様に、また牢屋に連れ戻されて両手両足を拘束される。ラルドが、鉄格子の向こう側で鍵を閉めいつもの様に去っていく。
この時、ラピスは完全に心を閉ざした。
それは、己の身を守るためであると同時に己の力の暴走を防ぐ自己防衛本能のようなものでもあった。
ラピスの中に眠る強大な力。狂気≠ニ呼んでも過言ではないであろうそれは、終焉の守り人が真実何かを滅ぼしたいと懇願した時に生み出される。
それは、どんな天災よりも強大な力を有し無論人間など敵うはずもない。
故に、終焉の守り人たちは自分の身に危機が迫ると自ら心を閉ざすのだ。
自分が、感情のままに……激情に任せるままに狂気を呼び覚まさぬようにと。
うらぎられたんだ。
うらぎられたんだ。
しんじてたのに。
だいすきだったのに。
いっしょだよっていってくれたのに。
なかまだっておもってたのに。
それはわたしのかってなおもいこみだったんだ。
そうだよね。
わたしはなにもできない。
よわくて、わがままで、どうしようもないただのこども。
そんなこどもがちからをもっていたんだものうばおうっておもうのはとうぜんだよね。
でも、でもね。
できることなら、わすれてしまいたい。
あなたたちにうらぎられたというきおくそのものをけしさって。
できることなら、あのあたたかいひびを。
もういちどだけ。
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