裏切りは突然に
温かい日々、それらがとても大切でずっとずっとこのままでいられたらと何度願ったことだろう。でも、そんなものは最初から無理な話だったのだ。
「ラピス様、少しお時間をいただけますか?」
「なぁに?」
ラピスがボンゴレに訪れてから約六年の歳月が流れ、ラピスは10歳になる。明日が誕生日なので、それまでに仕事を終わらせてしまおうと皆必死に仕事をこなしているのだ。
それをラピスも理解しているため、部屋でおとなしく本を読んでいた。
すると、扉をたたく音と共に扉一枚隔てた向こう側から聞こえる優しい声。
迷うことなく扉を開けたラピスは、扉をたたいた人物に飛びつく。
「ラルド!!お仕事はもういいの?」
「えぇ、なので久しぶりにラピス様に話を聞かせて差し上げようかと思いまして」
「やったー!じゃあね、じゃあね!お星さまのお話が良い!!」
「ふふ、かしこまりました」
そう言って、穏やかに笑うラルドはラピスに促されるままに、ソファーに腰かける。膝の上にラピスを座らせるとゆったりとした口調で話し始めた。
「昔、世界は星で溢れていました。それはとても大きな力を持った星で美しい炎を放つのです」
星は、人々の生活に無くてはならないものでした。怪我の治療、建物の解体、たくさんのことに必要とされていた星たちはやがて、争いの種になってしまったのです。
星を手に入れれば、絶対的な権力者になれる。星を手に入れた者がこの世の強者なのだ。
そんな考えが当時の人々の常識だったのです。
幾万の魂が天へ還り、数多の国が滅びる凄まじい戦いでした。
そして、その争いに勝利したのは一人の少女。
周囲の者たちが皆一様に虚ろな瞳で居るのに対して、少女の瞳は希望に満ちていました。
当然でしょう。
星を手に入れたことはこの世のすべてを手に入れたのと同然なのですから。
小さな両手に大事そうに星を抱え上げ、血濡れた体で抱きしめました。
するとどうでしょう。
沢山あった星々は、21個の岩へと姿を変えました。
それを見た人々は絶望し、世界の終焉が訪れたのだと嘆きました。
しかし、血濡れた少女は顔色一つ変えることなく、それを一族のもとへと持ち帰ったのです。
あの岩はもう、星ではない。
星は神々しい光を放つ。あの岩は、光を放たない。
星の力がなければ、生活することができない。
人々は、一度滅びかけそしてやっとのことで自分たちの力で火を起こす術を見出したのです。
それから、時が経つにつれかつて人々の生活を豊かにしていた星は伝説として語り継がれるものになりました。
皆、かつて頼り切っていた星の力も忘れ己たちの見出した火を駆使して生活し始めたのです。
しかし、まだ残っているのです。
再び、星を自由に使える世界を作ろうとする一族が。
「意味が、分かりますか?ラピス様」
「ラ、ルド……?」
いつもの穏やかな笑みではない。貼り付けたような恐ろしい表情のラルドを目にしてラピスは身震いする。
「貴方が、血濡れた少女の末裔なのですよ。ラピス様」
ビクリとラピスの肩が震える。すぐさまラルドの膝の上から飛びのこうとしたが、両肩を掴まれて身動きが取れない。
「そして、私は……」
ラルドの言葉が全て聞こえる前に、首に鈍い痛みが走る。そして、そのままラピスの意識は闇に沈んでいった。
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