空腹少女



「これって、悪い人を捕まえるためのものなんですよね!!」



本で読んだから知ってます!と目をキラキラさせながら、手錠を見ていたラピスだが、ひとつあることに気付いた。

これは、悪い人を捕まえるもの。そして、今私はこれにつかまっている。

……何かがおかしい。

そう思って、首を傾げると明らかにさっきまでとは打って変わってあわあわと目に見えて分かるほどの狼狽え始める。



「ち、違います!私悪者じゃありません!本当にただ、お届け物しに来ただけです!」



ぶんぶんと手錠の嵌められた手を上下に振りながら必死に訴える姿は、間抜けなのかここまで気づいても泣き出さないことに感心するべきなのか。そもそも、アラウディに殺気を向けられてこうも呑気な反応を見せられるというのはある意味凄い才能なのではないか。

と、埒もないことをジョットが考えていると少女が何かを思いついたかのようにあっといきなり大声を上げる。





「ちょっと、いい加減うるさ…」




アラウディの怒りが頂点に達しようとしたその時、少女の体が前のめりに倒れてくる。いつの間にベットの上に立っていたのか興奮するうちに思わずと言ったところだろう。

すると少女は、ぴくぴくと痙攣しながらアラウディにもたれかかっていた。まぁ、アラウディが手錠をかけるため一番近くに居たので仕方ないと言えば仕方ないのだろうが、周りの守護者たちは少女が不憫で仕方がない。このまま投げ飛ばされてもおかしくはないのだから。


周囲の予想通り、アラウディの額に青筋が浮かんでいく。音もなくアラウディが少女の体を持ち上げようとしたその時。



「お腹がすきました――――――!!」





大声を上げて少女がガバリと身を起こす。




「うぅ、仕方ない。出直してきます」






それでは、と言ってぴょこんと軽く会釈をするとラピスは近くの窓から外に行こうとする。したのを、Gが首根っこをつかまえた。




「な、何するんですか!」



「それはこっちの台詞だ!誰が、みすみす逃がすような真似するか!」



「なっ!人をそんな悪者みたいに言って!私はただお腹が空いたからいったんおうちに帰ろうと思っただけです!」




この少女、いくら相手が14、5歳の少年だからと言って、仮にもマフィア相手に言うセリフではない。

Gもぴくぴくと額を痙攣させる。すると、いきなりジョットが笑い始めた。それはもう、高らかに。



「な、何笑ってるんですか…!」


心外だと言わんばかりにラピスが抗議すると、ジョットは必死に笑いをこらえながら謝る。絶対に誤り気がないだろうとラピスはジョットをにらむが、四歳の少女に睨み付けられて震えあがるものなどいないだろう。



「いや、手荒な真似をしてすまなかったな。食事なら、こちらで用意しよう」



「ちょっと待てジョット!こいつはそれを口実に逃げようとしてただけで腹が減ってたわけじゃないだろう!」




腹が空いているというのはうそに決まっている。そう考えたGだったが、少女は目を輝かせてジョットに頭を下げた。



「ありがとうございます」



本当に空腹だっただけなのか。こいつは馬鹿なのか。Gが驚き半分あきれ半分の視線を少女に向けると、少女はジョットの手を取ってぴょんぴょん跳ねていた。




「ありがとうございます!ご飯食べさせてもらえるなんて思ってませんでした!ジョットさん良い人ですね!!」



「ん?何故俺の名前を知っているんだ?」




確か自己紹介はまだだったはずだがと、ジョットが問うと少女はさも当然と言う風に話した。




「だって、お母さんに聞きました」



「お前の母さんの名前は?」



「レフィと言います」









その場にしばらくの沈黙が降りる。そして、Gに至っては頭を抱え始めた。何をこんなに落ち込んでいるのだろうとラピスが首を傾げる。






「そうか、あの人の娘さんだったか」



「お母さんを知っているんですか?」




「あぁ、知っているとも」














レフィ。


それは、ジョットやGがこのボンゴレファミリーを作る際、世話になった女性の名。そして、彼女が近々自分の娘を寄越すと言っていたのを守護者たちは今になって思い出す。

そして、一同は多少の違いはあれど同じ思いを持った。







この少女を傷つけなくて正解だった。もしどうにかしようものなら、レフィに殺されていただろうと。











「あ、あの!皆さんどうしたんですか…?特にGさん顔色悪いですけど…」



「ほっとけ」







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