初めての世界
「ボンゴレ……リング?」
「はい、皆様にはこのリングの所有者となっていただきたいのです」
つらつらと用意された台本を読み上げる様な少女の言葉は、何処かさみしさを含んでいるようにも思えた。その場にいる全員が、少女の言葉に耳を傾ける。
少女は、必死に覚えた言葉を思い出そうと記憶を漁りながら言葉を紡ぐ。
「とは言いましても、これはまだ正式なボンゴレリングではありません。……原石、とでも言いましょうか。この原石は特殊でして、この石を使いリングを精製すれば精度Aは軽く超えるリングが出来上がるのです」
一気にまくしたてるようにしては成した少女に、ジョットはしばし考えるが、やがて口を開く。
「すまない。悪いが教えてくれないか?なぜ、俺にその原石を渡すんだ?」
「見えたからです」
即座に返された少女の言葉にその場にいる全員が警戒を強める。当たり前だ。見える、などとそんな馬鹿げた理由があるはずはない。やはりこの少女は敵方のファミリーの回し者だったのだ。
最初に武器を構えたのはアラウディだった。目にもとまらぬ速さで少女の目の前までやってくると容赦なく殺気を飛ばす。
「おい、アラウディ!!」
見かねたジョットがいさめるが、アラウディは聞こうとしない。
「これは、ここで殺しておくべきだよ。どうなるかわかったものじゃない」
そう言って、少女の両手首に手錠をつけた。しかし、当の本人はこてんと首を傾げ、思いもよらぬことを言い出した。
「……これ、てじょー?」
そう言って、キラキラという効果音がまさにふさわしいような笑みを浮かべる少女。そして、よほどうれしいのか手を振ってみたり引っ張ってみたりしている。
「初めて見ました!本で読んだことはあったけど、本物を見たのは初めてです!!」
心底嬉しそうに話す少女。そこで、ジョットはある疑問を覚える。いや、これもお得意の超直感というものなのかもしれないが。
少女が、この部屋にあるもの全てに、初めて見る様な好奇の視線を投げかけているように思えたのだ。
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