抑え込んできた記憶



不意に、意識が浮上する。ゆっくりと瞼を持ち上げると、白い天井が目に入った。次いで、悲しそうに顔をゆがめるクロームの姿を視界にとらえる。



「クローム、どしたの……?」



そんなに、悲しそうな顔をして。そう続けようとしたが、うまく言葉を発することができず軽く咳き込む。

すると、クロームはくしゃりと顔をゆがめて泣き顔とも笑顔ともとれる表情を作った。



「よかった…あれから、ずっとうなされてて」



心配したんだよ。と泣きそうな顔で言われてしまってはどうしようもない。ラピスはクロームにこんな顔をさせてしまったことを心苦しく思う。

何か、悪い夢を見ていた気がする。記憶の奥底から這い上がってきた、黒い黒い夢が。

私はまた、闇にのまれそうになっていたのだ。

でも、何故だろう。夢の中で何か温かいものに頭を撫でられて、毒気を抜かれたような気がした。



「誰だったんだろ……」



夢の中での記憶はあいまいだ。うすぼんやりと霞がかって見えて、意識が覚醒してしまえばはっきりと思いだすことはできない。

でも、あの頭にのせられた温もりは、何故かとても安心できるものだった。




クロームが立ち上がって、ボスに知らせてくると言って部屋を出る。医務室らしきところに一人残された私は、何気なく辺りを見渡した。

薬の瓶や、様々な医療機器が所狭しと並べられている。

不意に、鼻をかすめる病室特有の匂い。それを嗅いだ瞬間、ラピスの心臓がどくんと大きく脈動した。

あぁ、そうだ。

ここは、自分が大嫌いな場所ではないか。何故、忘れていた。まだ思い出していない記憶が残っていたとは。

そして、次々に脳裏を駆け巡る情景。

無理矢理開かれた腹部に、様々な薬を投与された腕。傷こそ残っていないものの、忌々しい記憶は消えはしない。

そういえば、彼らの裏切りを知ったのもこの場所だった。

どくん、どくんと心臓の脈動は収まることを知らず、どんどんその速さと大きさを増していく。

そうだ、自分は裏切られたのだ。ほかでもない彼らに。

恐ろしいまでの力を恐れた彼らは、私を嫌った。

そして、それに耐えきれなくなった私は、記憶を消した。彼らは、素知らぬふりをして生活をつづけたから、記憶を失った私も何ら疑問は持たなかった。

裏切られているなど、思ってもみなかった。















ラピスの目の奥に、小さな暗い炎が宿る。

この体は、一度闇から離れてしまったからもう、永遠の時を生きることは許されないだろう。

いや、生きているというのもおかしいか。

何故なら、

私はあの時、決めたのだから。















彼らを守るだけの、傀儡と成り果てるくらいなら















この身を自ら滅ぼして、















ボンゴレに終焉をもたらそうと。





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