願う事さえ
一瞬、目に映るもの全ての時が止まった。
思考も停止し、ただ、胸の内を言いようのしれない何かがかき乱す。そして、それはラピスの呟いたうわごとでさらに決定的なものとなる。
「………る」
「あ゛?」
最初の言葉はあまりにも小さすぎてよく聞き取れない。だから、少しだけ本当に少しだけだがXANXUSはラピスに歩み寄る。
「…く、この命…終わり……のか」
目の前にいる女の口から聞こえてきた信じがたい言葉。
命∞終わり
それは、紛れもないこの女が死を望んでいることを表しているのだろう。
何故だ。
誰よりも強いこの女が。
戦闘面に関してもだが、精神面でもこいつはほかの奴らとは比べ物にならないほどの強さを持っている。
なのに、何故。
XANXUSは言いようのない憤りを覚える。何故だ。自分一人だけ、遠い先を見据えて全てを見通したようにそこに佇んでいるのに。
今、目にしている女は・・・あまりにも弱い。
XANXUSは今まで目にしたことがなかった。
こんなにも、強く弱い存在を。
気が付いたら、声を掛けていた。これ以上、ラピスを放って置いてはならない気がした。
何度か呼びかけると、目を覚ましたラピスは最初はXANXUSの存在に驚愕していたようだ。だが、その驚きも心の奥底にしまい込んだのか、いつもの表情に戻った。
「何か御用ですか」
いつもと変わらない声音。だが、先ほどの泣いている様を見てしまったXANXUSにはそれが、ひどく脆いものに見えてならなかった。
この世の中で、何よりも強い存在。
この世の中で、何よりも弱い存在。
この世の中で、何よりも脆い存在。
この世の中で、何よりも危うい存在。
そんな少女が求めるのはほかでもない。
誰かの温もり
幾度となく温もりを無くしてきたラピスは、何よりも温もりを恐れ、温もりを求めた。
かつて手にした、大切な仲間との絆。
――――脆く崩れ去った、過去の記憶。
次に手にしたあまりにも平和な、大切な子たちとの思い出。
――――初めて、過去の自分の選択を悔やんだ記憶。
そして今、手に入れられそうな位置まで来ている。
新たな温もりが。
ラピスは必死にそれに気づかないふりをしながら耳をふさぐ。
そして、自分に言い聞かせる。
もうすぐ終わるんだ。だから、だから……
――――「何も望んじゃいけないんだ」
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