微睡の中の真実
「起きろ」
朝、まだベッドの中のぬくもりが恋しく、中でうとうとと微睡んでいると、不意に低温の声が耳朶を付く。
いつもなら、ベルかフランあたりが起こしに来るのだが、二人はここまで声は低くない。
だとしたら誰だ?二人以外に、自分の部屋を無断で訪ねてくるものなど心当たりはないのだが。
そんなことを、まだうまく機能していない脳で考えていると低い声の主はいささか気分を害したようだ。
先程よりもさらに低くなった声で、起きろと言われラピスはもぞもぞと動いて、掛布団の中から顔だけを出す。
部屋から廊下へ出る扉の所に仁王立ちをしてこちらをにらんでいたのは、他でもない。
赤い瞳に、黒い髪。すっと細められた鋭い眼光は、ボンゴレU世に酷似している。
「ボ、ボス…」
慌ててベッドから跳ね起きて、立ち上がる。XANXUSはというと、何も言わずにそこに立ったまま微動だにしない。
一体何をしに来たんだと、内心毒づきながらも努めて平静にラピスは問いかけた。
「何か御用ですか?」
そういうとXANXUSは一度わずかに眉をひそめて苦い顔をする。いや、ほとんど表情は変わっていないのだが。
「………」
XANXUSはラピスの質問に無言で返す。すると、ラピスは訳が分からないという様に顔をしかめた。
XANXUS自身、自分が何をしにここに入ったのかは正直理解できていなかった。
今朝、珍しく早く目が覚めてしまったXANXUSはルッスーリアに朝食の催促をしようと廊下を歩いていた。
本当は、誰かを呼びつけようかとも思ったのだが、朝が早いためか誰も起きていない。部下を消して怒りをぶつけようかとも思ったが、そんなことよりも腹が減った。
仕方なしに、自分で歩いている最中ラピスの部屋の前を通りかかった。
そして、思わず足を止めて、XANXUSは己の耳を疑った。部屋の奥から聞こえてくるのは、すすり泣くような声。
いつも毅然としていて、隙など見せないラピス。
来たばかりの頃などは、夜になっても眠らずに常に警戒を解かなかったという。そんな彼女が、自室で睡眠をとるようになってからおよそ一週間。
それでも、彼女の弱音を吐くところはもちろん。泣いている所など見たことがなかった。
そんな彼女の部屋から聞こえてくる声。何かがあったのだろうか。
XANXUSにしては珍しく、というより絶対に思わないであろうことを思っていた。
そして、気が付いた時には体が動いていた。
扉の向こうで泣いているであろう彼女を心配したわけではない。
ましてや、慰めてやろうなどということも。
ただ、何故だが無性に胸騒ぎがした。
このまま、このまま時がたてば、彼女は消えてしまう。
そんな予感がして。
自分は超直感などというたいそうなものは持ち合わせていないが、長年この裏社会に身を置いてきたこともあって、人一倍に何かが起こる予兆というものを感じ取っていた。
それと同じものが、今。
部屋の中のラピスは眠りながら、静かに涙を流していた。
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