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えー皆様こんにちは。楓でございます。グダグダを極めた誘拐事件編も終わり、並盛中学校は平和の極みにございます。

……奴さえいなければ。

そう、奴は学生の敵ともいえる忌々しい存在。若者たちの限りある時間を奪い去って、尚且つ多大なダメージを与える恐ろしい悪魔の落とし子。

そう、その悪魔の名は……


「テスト返すぞーー」

「うぐっ!?何!?フェイント攻撃だと…!?大佐…オレはもう駄目だ…先に、故郷へ帰るぜ…」

「今回のテストは出来が悪い奴と良い奴の差が激しい。悪かった奴は見直ししとけよ〜」

「スルーかよ!!」


根津に変わって新たに担任になったこの先生。スルースキルが半端なくてボケをかましても悲しい空気になるのが難点です。


「オイ、赤羽雄たけびを上げるなうるさいから」

「あげてないっすよ!?先生耳大丈夫!?」

「残念ながら、お前は頭が大丈夫じゃない。ほら見ろ、この一桁のオンパレード」

「個人情報の流出はご遠慮くださいぃいいいい!!!!」


バシッ!!と先生の手からテストをひったくるがもう遅い。クラスのみんなに知れ渡ってしまった。たくさんのクロスの描かれた私の答案用紙を。


「楓、カッコよく言っても×は×だから。それに楓の頭がお花畑なのはみんな知ってるから」


ツナさん最近ブラック化が進行してません!?言葉の端々にとげが見え隠れしてるよ!?


「楓、何点だった?」


キラキラと白い笑顔に戻って聞いてくるツナさん。え〜〜と視線を彷徨わせて隣の獄寺の答案用紙が百点バッカでイラついたから破り捨ててやった。


「何しやがる!!」

「こんなもので人の価値が図れるか!!人間は楽しく暮らしてなんぼなんだよ!!」

「赤羽〜〜お前将来の夢のために頑張ろうとか思えんのか〜〜」

「将来の夢は大富豪のお嫁さん!!」

「あ〜〜大富豪が付いてなくてもっと別な奴が言ったら先生も応援してやれるんだけどな〜〜〜」

「私が結婚できないってか!?」


おい、先生!!無視すんなよ!!

もういいよ。応接室でヒバードちゃんと草壁さんに慰めてもらうもん。


「せんせ〜〜おーせつしつ行ってきまーーす」

「おーじゃあ後で先生に応接室のお茶菓子を差し入れろ」


うん、この先生嫌いじゃないよ。ちょっと性格に問題ありだけど。

んで、私は応接室に向かったのでした

最初は、テストの結果がさんざんで落ち込んでいた(?)私も、応接室のお菓子たちが私のことを待っているかと思うと、自然と頬が緩んだ。歩く先々で、他のクラスの教室から「あ、またあいつ抜け出してるよ」って声が聞こえたけど気にしない。

ガラガラ〜〜っと扉を勢いよく開けると、そこには書類を片付けている手を止めて、ジー―っとヒバードちゃんを見つめる委員長の姿。


「ヒバーードちゃんを食べるなんてお母さん許しません――――!!!」

「僕も君がお母さんなんて絶対に許さないよ」


間髪入れずにそう答えられて返答に困る。なんか言い返せない雰囲気。しかも、なんで授業サボってんだよ。学校の風紀を乱してんじゃねーぞコノヤローって視線が痛いほど突き刺さる。

しかも、若干怒ってる。若干じゃないくらい起こってる。

ヤバいぞ〜〜冷や汗が背中を伝って、私は最終的に一つの解決策を見出す。


「………」

「無言で菓子箱あさり始めるの止めてくれない?目障りなんだけど」

「め、目障り!?そこまで言いますか!!」


しかもまた、黙々と書類をこなしながら言うもんだから余計に怒りが込み上げてくるんだよな!!

沈黙に耐えかねて(まぁ、別にそんなことはないんだけども)私がソファーに座ってお菓子を食べ始めると、委員長がそういえばと言って顔を上げる。


「今日、君のクラステスト返されてるはずだよね?」

「そうなんだよ〜〜山田くんったらお弁当、幼稚園に通ってる妹のと間違って入ってたみたいでさ〜〜泣く泣くピンクのうさちゃんフォーク片手に食べてたのは哀れだったね」

「誰もそんなこと聞いてないし。テストは?テスト」

「そうそう、委員長のくせによく知ってるね。太郎君彼女できたんだよ」


ヒュンッと綺麗な漫画みたいな音を立ててお菓子入れに差し伸べていた私の手すれすれのところに突き刺さった筆ペン。筆ペンって突き刺さるもんなの!?

恐る恐る引っこ抜いてみると、それは万年筆でした。


「あっぶな――――!!これ下手したら刺さるよ!?いいんちょ!ねぇ!!出血多量でショック死するよ!?」

「テストは?」


だからお前はなんでそうもテストに執着持ってんだよ!さっきから必死に話そらそうとしてんのにことごとくスルーを決め込んでくるんだよ!!


「帰ってきましたよ。でも今にも餓死してしまいそうな飢えた山羊さんを見つけたんであげちゃいました」


大真面目な顔を必死で作ってそう答えると、委員長が一瞬目を細めて、頭に手を置いてため息をつく。


「…ハァ、また全部一桁か」

「なんで分かるのぉおおおおおお!?」


応接室、いや学校中に轟いたであろうその絶叫は委員長から放たれた「必殺☆殺気光線デストロビーム」により、慌てて私は口をふさぐ。


「ななななな何で分かったんですか!!」

「君がテストで二桁取ったら、凄くムカつく顔しながら自慢げにテスト用紙ちらつかせてくるからね」


凄くも何とも無いのにねって、真顔で言われたらそら鋼鉄のハートを持っていると神様に褒められた私だってちょっとは気が付くわけで。んでもってすぐさま私の心に土足で上がり込んできた委員長に「神様とか嘘言ってる暇あったら仕事してよね」なんて言われちゃったらもういじけモードに入るしかないわけで。


「やってらんないよな〜〜!もうよぉ〜〜!!!!」

「そんなリストラ寸前のサラリーマンみたいなのりでお菓子をむさぼれる君はある意味凄いと思うよ」




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