きっと全部分かっていた。彼女に出会ったあの日から僕たちは一緒に居てはいけないと。なのに離れられなかった。離れたくなかった。僕は狂おしいほど彼女を愛し、溺れ、依存した。それは彼女も同じで、僕達は完全に二人の世界に入り込み扉を閉め現実をシャットダウンした。それなのに現実は残酷で、僕達にはもう時間が無かった。

「アレン…私、貴方を愛している」

「僕も、愛しています」

「永遠に一緒に居られることはできない、そんな事わかってるけど。離れたくない、の」

 ぽろりと彼女の大きな瞳から零れ落ちた涙は重力に従い落下した。愛してる、愛してる、愛してる。こんなにも愛している。それなのに。何も知らないフリをしたかった。いっその事僕と彼女だけの世界で、一生二人で過ごしたかった。

「一緒にずっといたいね」

「きっと、いられますよ」

 現実を見ないように、僕達はただ寄り添って静かに時を過ごした。刻々と時間は過ぎていく。僕も、彼女も限界だった。

「一緒にいたい、よ…離れたくない…」

「…っ」

「どうして…、どうして私はノアなの…っどして、アレンは…っエクソシストなの…っ」

「…っ、!」

 震える彼女の体を思いっきり抱きしめる。離れたくない、愛してる、傍にいて。どんな言葉も今は意味を成さなかった。ただただ抱きしめて。君に言葉無くとも愛を伝えられれば。

「…ア、レン…私を、殺してよ…」

 ひゅっ、っと喉が鳴った。それなのに。何を言ってるんだ彼女は。理解したくない。この手で彼女を殺すことなど、できるはずもない。時間が止まったかのように感じた。静寂の中で、彼女の嗚咽が酷く響く。僕は震える手で彼女の髪をなでた。

「……できま、せん…っ」

「でも…っ!このまま時が経てば…私達はお互いを殺し合ってしまう…っできるなら、今…貴方を愛してる状態で…っ」

 涙で服が湿る。泣き続ける事しかできない僕等の恋はこうした結末を迎えるのが一番幸せなんだろうか。迫り来る時間の中僕は回らない思考回路をフル回転させて考えた。どうすれば、どうすればいいんだ。その間にも刻々と時間は迫ると言うのに。

「アレン…っ!」

 彼女の悲痛な叫び声が嫌に鼓膜を振るわせた。僕は彼女をより一層強く抱きしめ、そして―。


私を殺してと彼女は泣いた
(ぽろり、涙が零れ落ち時は来た)


「最期の恋は叶わぬ恋となり散り果てた」様に提出
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