「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
さっき見つけたみち子を孫兵に託して今俺らは忍犬の散歩中。
「ぎゃあああああああ!!!!」
さっきから聞こえる悲鳴は勿論藍のもの。
忍犬たちを連れて裏裏山に来たんだが、紐を外した途端始まる藍とのお散歩恒例の追い掛けっこ。
「はは、今日も進展なしだな!」
「笑ってないで助けてよー!!!」
「何だ、今日は頑張るんじゃなかったのか?」
「はっちゃんの鬼!!!」
「はいはい、分かったよ」
流石猫又とのはぁふ、ってやつか。
藍は木の枝を飛んだりして忍犬たちから逃げている。
そしていつも疲れると一番高い枝に掴まって俺に助けを求めるのも毎回恒例。
仕方無いと犬笛を吹いて藍がいない方へと指示をし、この追い掛けっこは終わる。
「藍ー、もう大丈夫だぞー?」
「うん!」
「…や、降りてこいよ」
「分かってる!」
「……あのな、素直に助けてって言えよ」
「うん!はっちゃん助けて!」
枝に掴まったままいつまでも降りてこない藍に、小さく苦笑してその枝の下まで歩く。
今回はまた随分と高い所に登ったな。
俺の言葉に素直に助けを求めた藍を見上げどうするかと思考を巡らせる。
「あの子たち、随分と成長したねー」
「ん、まぁな!」
「こんなに高い所登ったの初めてだよ…」
「ははっ、俺でもそこはさすがに高いと思う!」
下を見ないようにしているのか、目線を俺から反らしながら忍犬たちを誉めてる。
自分がいつも追い掛けられてたまにかじられてるのに、藍はあいつらを邪見にする所か成長を喜ぶような言葉を言う。
まぁ恐怖心を反らそうとしてるのもあると思うが。
「藍、お前縄梯子とか持ってないのかー?」
「ない!」
「…どうするか」
あの高さに生えた細い木は限界のようで、藍が体重移動をしながらやっとバランスを留めてる程にしなっている。
これはゆっくり考えてる暇もなさそうだ。
「仕方無い!おい藍、俺のところに飛び込んでこい!」
「む、無理だよ!俺男だよ!?」
「まぁ、何とかする」
「何とかするって…ぅ、に"ゃ!?」
「えええええ!!!???」
俺の言葉に動揺したのか、バランスも考えず身を乗り出した藍にもはやお決まりなのかと思えるようなオチに焦って落下地点へ走る。
両手を広げて俯せに落ちてくる藍は半泣き。
「びにゃああああああ!!!!」
「うおおおおおおお!!!!!」
グシャとか音がして俺達は草むらに倒れた。
可愛い藍も男なんだな、さすがの俺も勢いがついたこいつをかっこよく受け止めることは出来なかった。
「いてて、大丈夫か?」
「う…ごめ…」
「俺は平気。藍は?」
「俺も平気〜…」
倒れた上半身を起こしながら藍の体を見て異常がないか確かめる。
さっき忍犬に追われてたから所々汚れてたり切れてたりするけど、たいした事はなさそうだ。
落ち込むように顔を俯かせる藍の頭を撫でて、ついでに珍しく見えた額に口付けする。
「ふぁっちゃん?!」
「誰だよふぁっちゃんって」
「いいいい、いま今いまっ!!」
「助けてやったんだ、それくらいいいだろ?」
「…う、ありがとう」
「おう!どういたしまして!」
あー本当可愛いわ。たかが額に口付けしただけでこんなに顔赤くして。
初めてでもないだろうに。
そう思った瞬間、胸にチクリとした痛みが襲った。
「…なぁ藍」
「ん?」
「お前ってさ、その…」
「うん」
「し、シた事あるのか?」
「え…何を」
「えと、ナニを?」
「なっ…!!何言ってんだよはっちゃん!」
「いって!」
ぼふん、と音が聞こえた次の瞬間鋭い痛みが頬を過った。驚いて後ろにあった木をみれば苦無が一本突き刺さっている。
「お、おま…苦無投げることはないだろ!!」
「別に当てるつもりは無かったけど…は、はっちゃんが変なこと言うからだろ!」
「男同士変な会話でもないだろ…」
「う…」
忍を目指す者は房術だって習わなきゃいけない。
上級生になり、それなりの知識を与えられ五年に上がるための試験として俺たちは乗り越えた。
中には想い人が居るからとくのいちの子に頼んでダメだった男もいたな。
「ある、けど俺のお師匠様だけだよ」
「師匠…?」
「うん」
「…何かお前、それやらしいな」
「ばっ…ばかざえもん!!!」
「ばかざえもん!?」
「助平ざえもんー!!!!」
「ちょ、待てよ藍!!!!」
にやけそうになる顔を抑えて何とか平常心で言葉を紡げば藍が赤い顔のまま俺の頭に手刀を降り下ろした。
好き放題藍が言いながら俺から離れ、学園に戻る道へ走っていく。
俺はそれを追いながら振り返った藍の表情を見た。
「雷ちゃんに言いつけてやるっ!」
「んなぁっ!?そ、それだけは勘弁して!!!!」
「へへ、どーしよっかなぁ!じゃあ追い掛けっこではっちゃんが勝ったら言わないでおいてあげるよ!」
「言ったな!よし、お前ら行くぞ!!」
悪戯っ子のような笑みで速度を上げた藍に続くよう俺も足を早めて、犬笛を吹いた。
すぐに集まるこいつらの頭を撫でて藍を追うように命令する。
「いけ!」
「うわ、虫獣遁の術とかずるい!」
「使えるもんは使うのが忍だからな!」
「ぎゃああああああああ!!!!!」
「ははははは!…ってそんなばやいじゃねぇ!!俺も急がないと!」
更に速度を上げた藍の背中を笑いながら見てると、優しい笑みを乗せて黒いオーラを背負った雷蔵が脳裏に浮かんで俺もさらに加速した。
いつもいつもこんなオチだけど、藍が笑ってくれるならそれでいい。
まぁ出来るなら俺だけにその笑顔を向けてくれたらいいとは思うけど。
今は今で、やっぱり楽しいんだ。
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藍の純情具合にいつもはストレートな竹谷も言うのを躊躇うっていう。
房術か…14歳なんて早いよなぁと思いつつも昔は結婚も早いのだからそんなもんかと考えをやめました←
忍犬は藍を嫌っている訳じゃなく、寧ろおもちゃ感覚なので時たま加減を忘れるペットあるあるを想像して書きました(^ω^)
それを分かってる竹谷はあえて自分からは止めない。
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