戸を開けたらそこは銀世界。
幻想的なその空間で遊ぶ桃色。
鍛練をしに行ったのか同室の彼は居なくて、ただ静かな空間に短い悲鳴が聞こえて桃色が視界から姿を消した。
「藍ー、大丈夫かい?」
『伊作ー、助けてー!!』
積もりに積もった雪が僕の片想い中の彼女を隠してしまって、少し不安になって声を掛ければ可愛らしい声が聞こえた。
それに安心しながら上着を羽織り、真っ白な地面に降り立つと足先からじんわりと冷たさを感じる。
彼女、藍が消えた所まで慎重に足を運べば仰向けに寝転がった姿が視界に入った。
「ほら、起きて。そんな所で寝転がってたら風邪を引くよ」
『伊作が起こして?』
「…まったく」
僕が辿り着くまで待っていた藍は腕を伸ばして足をバタつかせている。
下級生のような仕草に眉が下がるのと、自分を待っていてくれた彼女の可愛らしさに口角が緩く持ち上がった。
伸ばされた手を掴もうと一歩前に踏み出した瞬間、やはりと言うかお決まりと言うか僕は盛大に雪の中へダイブする。
「………」
『随分と派手に落ちたね?』
「うぅ…」
四年の綾部が昨日にでも仕掛けたんだろう、僕は積もった雪と一緒に穴へ落ちた。
落ちたと言うか正確に言うと嵌まった、のが正しいと思う。
いつの間にか藍は起き上がって、屈むようにこっちを見て笑ってる。
「わ、笑ってないで助けてよ」
『ふふ、ごめん。こんなはまり方なかなか見られないから、つい』
「雪があるから余計にカッコ悪いはまり方したのは自分でも分かってるけどさ…」
『でも私、そんな伊作が大好き』
ニコニコと、まるで日常会話のような流れで藍が言った。
はまっている事も忘れて、沈黙が流れる。
『ねぇ、伊作』
「…っちょっと待った!」
『え?』
「そそそそ、そう言うのは男の僕から言わせて!」
穴から這い上がりたい、でも凄く恥ずかしくて穴に入りたい。
そんな矛盾な気持ちを抑えながら、結局そのまま藍の大きな瞳を見つめた。
大きく息を吸って、言うんだ。
「藍っ、ぼ…僕と付き合ってください!!」
『うん、お願いします!!』
お互いが雪で染まって真っ白なのに、頬と鼻だけは真っ赤で。
これからきっと雪解けの季節だ。
僕たちはもうすぐ卒業。
これからたくさんの困難があるだろう。
でも、この白の中で始まった恋がいつまでも続くことを祈るよ。
『ねえ伊作』
「なんだい?」
『卒業しても、なかなか会えなくても泣かないでね』
「な、泣かないよ!」
『私も、泣かないように頑張る』
ふわり、穴にはまったままの僕を抱きしめ呟いた。
藍の声は雪に吸い込まれてしまったけど、僕はゆっくりその言葉を心に刻んだ。
戦の耐えないこの時代をともに生きたいと思えた彼女を守りたい。
「強くなるよ」
『うん』
大好きな君を。
真っ白に染まった体を寄せ合った。
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なにこれ意味わからなくなっちゃった。
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