学校の帰り道、1人何と無くカフェに寄った。

人気のない、ひっそりとした路地に佇むカフェ。
高校生の私にはまだ早すぎるような気がしたけど、不思議な雰囲気に誘われてしまって戸を開けばアンティーク調のお洒落な内装。





『こ、こんにちは…』

「いらっしゃいませ」

『っ!』





恐る恐る中に入って見れば、カウンターから男の人がいきなり現れた。

きっと元から中に居てしゃがんでいたんだろうけど、急な事に少しだけ驚いてしまった。


鞄を握り締め、ゆっくりとカウンターに近付いて見れば黒髪が緩やかなウェーブを描く綺麗な男の人が居る。

その人は優しく笑って椅子を引いてくれた。





「珍しいね、高校生がこんな所に」

『え、や…何だか不思議な雰囲気に惹かれたと言いますか…ってあ!し、失礼でしたよね!すいません…』

「ううん、俺もこの不思議な雰囲気に惹かれて店を建てたんだ」

『えっ?!』





思ったままの事を言った後で失礼だったかと謝罪すれば男の人は笑って首を振った。

店を建てたんだって、もしかしてこの人店長さん?!
バ、バイトさんかと…

思わず目を見開いた私に店長さんは困ったように笑って厨房に入っていく。


あぁ、また失礼な事をしてしまっただろうか。





「俺、こう見えて25なんだ」

『す、すいません…』

「いいよ。あ、何飲む?」

『あ…じゃあ、お薦めで』

「かしこまりました」





胸に手を当て、一礼をした店長さんの顔がカウンターのライトに照らされて長い睫毛が影を作る。

かっこよくないですか…?とか思いつつ、何だか急に照れ臭くなってお願いしますと頭を下げた。



店長さんは冷蔵庫から色々取り出し初めたので、私は鞄から本を取りながら辺りを見渡した。

小さな窓から見える景色は、ここがまるで別の空間になってるような感じがする。


お客さんは1人もいない。

こんなかっこいい店長さんなら、女性のお客さんとか沢山居そうな気もするのだけど。





(あ、店長さん…奥さんとか彼女さん居るのかな)





折角出した本はテーブルに置きっぱなしで、私の視線はキョロキョロと忙しなく店長さんを追いかける。

こんな子ども、相手にしてもらえるわけないと分かってるけど何だか悲しくなってひたすら身長が高くて細い店長さんの背中を見つめた。


後ろ姿もかっこいいな、なんて思ったら視線を感じたのか店長さんが振り向いて視線がぶつかる。





「あぁ、何作ってるか気になる?」

『えっ、あっ!は、はい!!』

「秘密」

『へ…』

「出来てからのお楽しみって事」






人差し指を唇に当てた店長さんが妙に色っぽくて顔に熱が集まる。
それを隠すように俯きながら無言で頭を立てに振った。






(何それかっこよすぎるよ…!!)





店内にふんわりと香る優しい匂いが徐々に緊張を解してくれるけど、高鳴る鼓動は止められなさそうだ。

まるで少女漫画のような展開になるなんて…
どうやら私は恋をしてしまったらしい。


恥ずかしすぎる!絶対無理に決まってる、と頭の中で自分が大暴れしている。





「お待たせしました。当店お薦めの豆乳ラテです」

『ぎゃ?!』

「あ、ごめん」

『てててて、店長さん!い、いえ…!』




妄想の中で頭を抱えていると、いつの間にか厨房から出たのか店長さんが隣に立ってコーヒーカップを差し出してくれていた。

覗き混むような体勢だから思ったより近くて椅子の上で盛大にバランスを崩してしまう。
何とか自分で立て直すと目を細め微笑する店長さん。





(しっ、死ぬ…)

「あ、もしかして豆乳苦手だった?」

『い、いいえ!大好きです!!』

「…はは、そっか。なら良かった」





覗き混むような体勢だったのは私の反応を見るためだったのか、やっと店長さんは姿勢を正してくれた。

落ち着いた私は豆乳とコーヒーの香りを少しだけ楽しむと、それに口をつけて少量飲み込む。





『おいしい…』

「それは良かった。じゃあこれは俺からのサービス」

『これ、なんですか?』

「おからクッキー。試しに焼いてみたんだ」

『わぁー…』





小さい器に3つほど並んだクッキーに目を奪われた。
美味しそう、そう思って店長さんが居る方へ振り向くと隣に腰を下ろしてこっちを見ている。

手元にはちゃっかり私と同じ物。






『え?え?』

「今日はもう店閉めようかと思って。俺も一緒にいいかな」

『……っ、店長さんズルい』

「へ?」

『いえ、その…店長さんのお店なのでお好きにしていいと、思います…』





そんな顔で、そんな優しい声で言われたら何も言えないじゃないですか。

いや、元より断るつもりなんかないのだけれど。


そう思いながらおからクッキーを一口食べれば甘過ぎない味が口の中に広がる。





「うまいか?」

『、はい!』

「本当に美味しそうに食べるね…えっと、名前は…」

『わ、私一条藍って言います!』

「そっか、藍ちゃん。俺は久々知兵助、宜しく」





久々知、兵助さん…
私の名前を呼びながら微笑んでくれた彼に再び顔が熱くなる。


もし、もし彼女やお嫁さんが居ないなら頑張ってもいい…かな?


震える手で、兵助さんが作ってくれた豆乳ラテを一口飲んで顔を上げた。





『あ、あの!』

「そうだ、藍ちゃんは彼氏居る?」

『えぇぇ!?い、居ません!』

「そっか、じゃあ俺…頑張ろうかな。25才は女子高生からしたらおじさん?」

『……あ、あの頑張ろうかなって』






私は夢を見てるのだろうか。
頬杖ついて微笑む兵助さんが、今頑張ろうかなって…さっき私が心の中で言ってた事…、

もしかしたらからかわれているのかも、そう思って言葉を繰り返しながら手汗が止まらないそれを拭った。






「俺、藍ちゃんの事好きになっちゃったみたいなんだ」

『へ…あ、私…な、何で』

「くるくる表情変えて、何だか可愛いなって思った。それに俺の作った豆乳ラテも凄く美味しそうに飲んでくれたし」





俺の彼女が藍ちゃんだったら幸せだなって思ったんだ。

ゆらり、揺れた影が私を後ろから抱き締めて兵助さんが耳元で囁いた。










(やっぱり兵助さんズルいと思う…!!!)






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タ●ーズで飲みながら書いたので20分クオリティですごめんなさい←

25歳の兵助想像して思わずにやけ、興奮そのままに書き始めた次第でございます!

カフェ店長兵助気に入ったのでシリーズ化するかも←←




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