温もりが、欲しかった。

ただそれだけの筈だったのに。





ポツポツと雨が体全体を冷やす。


もうどれくらいこうしていたのだろうか。





『さむ、い…』






惰性で付き合った彼との長年の偽りは先程幕が下ろされた。
優しくて、暖かな彼の手を私が離した。





「いつまでそうしているんだい?」

『いさく、』

「風邪、引くよ」





番傘を差した幼馴染みの低くて優しい声が雨音の中に響く。
ゆっくりと振り向けば泣きそうな顔をした伊作。

どうして彼が泣きそうなのだろうかと、何処か第三者のように考える。


保健委員だからだろうか、私が風邪を引いてしまうのがそんなにも悲しいのか。





『泣かないでよ伊作、私は馬鹿だから風邪引かないよ』

「馬鹿だとかそういう問題じゃないだろ?って言うか風邪引くからってさすがの僕も泣かないよ」

『ならどうしてそんなに泣きそうなの?分からない』





雨に当たりすぎたのか、幾らかぼんやりとする頭で考えても全く答えが見当たらない。

こっちに歩み寄ってきた伊作をただ表情もなく見つめ続ける。

一人になりたいのにとか、まだ雨に当たっていたい、とか思ってるのにそれは言葉にならない。





「泣くなら僕のそばで泣けばいいよ」

『泣くって、何』

「好きだったんだろ?本当は」





懐から手拭いを出して私の顔や髪を拭いてくれる伊作の言葉に首を傾げた。

好きだった?私はただ温もりが欲しかっただけ。
だからそういう訳じゃない。


それを伝えようと口を開いた瞬間、雨じゃない塩分を含んだ滴が口内に広がる。






「ねぇ藍。忍者だって人なんだ。一人じゃ生きていけないんだよ」

『うん』

「支えを失った人間は脆いんだ。あっという間に崩れ流されてしまう」

『流されちゃうの?』

「そう。どん底にね」





繰り返すように伊作の言葉を紡げば薬の匂いが私を包む。

それと同時に感じる人の体温。
温かい。





「だからね、僕が藍の支えになってあげたいんだ」

『崩れて流されちゃうから?』

「そう。それに僕も今、崩壊ぎりぎりなんだ」

『何で』

「藍が居なくなっちゃいそうで怖いから」






忍は孤独なものであると教わってきたのに、やっぱり伊作は向いてないんじゃないのかなと思った。

それでも私に向けてくれる穏やかな視線や、差し伸べてくれた番傘の下は伊作曰く好きだった筈の彼より暖かい。



体感温度だけじゃなくて、心にじんわりとする温もり。






『伊作は本当に忍に向いてないね』

「よく言われるよ」

『でも、私も向いてないのかも』

「うーん、どうだろうね?」

『だって』





困ったように首を傾げた伊作の首に腕を巻き付け、抱き付いた。

寂しいの、寒いのはイヤなの。





『ねぇ伊作』

「なんだい」

『あっためて』

「喜んで」





優しく、それでも強く抱き締めてくる伊作に私の雨も空の雨もあがった。






『寒いのは嫌い』

「知ってる。だから僕が今まで通りずっとそばにいてあげる」

『そうじゃなかったら他の人探しちゃうんだから』

「ふふ、それは困ったな。じゃあ僕は君に手を伸ばす男たちを本気で阻止しなくちゃいけないね」

『伊作の本気…怖いわ』

「そうかな?でも仕方無いよ、僕は藍が居なくなったら死んじゃうもん」





普通ならゾッとするような言葉なのに私にはこの上ない最上級の口説き文句。

だって、私だって普通じゃないんだもの。







これからの未来が今頭上で燦々と輝く太陽のように明るいとは限らないけど、それでもいいの。

重なった唇が暖かくて私は笑った。







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うわぁ!何この意味不明な内容…

暗いのかおかしいのかちょっとよくわからなくなってしまいました(白目







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