「すいません、私たちすぐ席外すので…」

「おい、お前。少しここに残れ」

『え、私ですか?』

「ちょ、鉢屋先輩…?こいつ次の授業出なきゃ単位が」

「私は田村には言ってないが、なんだ?文句があるなら聞こうか」





三木が私を鉢屋先輩から庇う様に再び後ろに押し込まれれば不機嫌そうな声が聞こえる。

あぁ、めんどくさい事になりそうだ。
仕方ない。





「文句って…だって鉢屋先輩は」

『三木、いいよ。もしかしたら鉢屋先輩、私に愛の告白かもしれないでしょ?』

「な、お前何言って…!」

『大丈夫だよ、三木。先行ってて』





そう言って笑えば三木は眉間に皺を寄せて私に向けた視線を鉢屋先輩に向けた。
後ろから見てるからどんな顔をしてるかはしらないけど、三木が珍しく怒気を漂わせてるのはなんとなく分かった。

三木は優しいな。
だから私は寄生してしまうんだ。





「鉢屋先輩…」

「なんだ?」

「藍に何かしたら許しませんから。先輩とは言え、コイツは私の大切な友達なんです」

「は、大丈夫だ。私に女を殴る趣味はない」

「…その言葉、しっかり聴きましたからね」

「あぁ」





三木が先輩に向かってそんな口を叩いた事に驚いた。
いつもギンギンな先輩に振り回されているくせにこんな時だけ男らしくなるなんて。

しかも私なんかのために。

勝手に浮かぶ笑みを消して、今だに鉢屋先輩を睨む三木の肩を叩いた。





『なーにらしくない事言ってんの。早く教室に戻りなよ』

「藍、何かあったらすぐ言えよな」

『はいはい、大丈夫だよ。ありがと』

「…授業終わったらすぐに来る」

『へーい』




結局最後まで鉢屋先輩を睨んだまま三木は屋上を去っていった。

さて、と私はフェンスに体を預けたままの鉢屋先輩に体を向ける。





『私を嫌いな先輩が、何の用でしょうか?』

「お前はいつもああして田村に庇ってもらってるのか?」

『は?』





軽蔑するような目で私を見ながら鉢屋先輩はそう言い放った。
あぁ、先輩も三木関連での事だったかと少し脱帽しながら呆れた様にため息を零す。





『まあ、いつも一緒には居てもらってますけど』

「お前を見てるとイライラするんだよ」

『それはすいませんね』

「お前はあいつにいつまで隣に居てもらうつもりだ?」





パタパタと校内用のサンダルを引きずりながらこっちに近づいてくる鉢屋先輩に眉間に皺が寄るのが分かる。

一度も話したこともない先輩に何故ここまで言われなきゃいけないのだろうか。


そこで私は考え付いた。
目前に迫る鉢屋先輩の、イラつく理由。

自然に笑みが浮かぶ。





『あぁ、そう言えば不破先輩に彼女できたみたいですね』

「っ、」

『鉢屋先輩って不破先輩にいーっつも…っ!』

「雷蔵が、どうしたって?」




嘲るようにそう言って笑えば目の前に居た鉢屋先輩が直ぐ傍に居て、視界が反転した。
自嘲するような笑みを浮かべた鉢屋先輩と、背景には鬱陶しい位に晴れ晴れした青空。


覆い被さる様に私に圧し掛かった先輩はいつの間にか無表情になっていて、私に視線のみを寄越している。





「俺がお前を気に入らない理由が分かるか?」

『自分を私に重ねているんじゃないですか?』

「は、そんな訳ないだろう」

『じゃあ何なんですかね?私には分かりかねます』





ふと顔の真横にあった手が私の肩を掴む。

それでも瞳が少しだけ揺らいだのをこんな至近距離で見てる私が見逃すはずがない。

少しずつ肩を掴んだ手に力が籠められているのが分かっても私の笑みは消えることがなかった。





『教えてください。私には嫌われる理由がそれしか思いつかないんです』

「俺はお前が、お前という存在がただ嫌いなだけだ」

『三木に寄生してる私が鉢屋先輩と被って見えるからじゃないんですか?』

「俺は雷蔵に寄生していない」

『なら、どうして…そんな顔をしてるんですか』





悲しそうな顔、声。
私と違う点が鉢屋先輩との間にあるとしたら一つ。





『不破先輩は、三木じゃありません』

「当たり前だろ」

『なら、不破先輩が彼女を優先しようと鉢屋先輩は受け入れるべきじゃないんですか』

「だか、らっ…俺は!!」

『鉢屋先輩、私だって三木から離れたいんですよ』





目の前の瞳から降ってくる雫を受け止めながらずっと思ってきた本心を口に出してみた。

離れたい、離れたくない。
交差する矛盾。

三木は優しいからこれまで離れられなかった。
自分から離すのは怖かった。


いつも一緒に過ごしたはずの昼食も、サボろうとする私を引っ張っていってくれる三木の優しい手を離すのがどうしても怖くて仕方がなかったんだ。






「離れる気なんて毛頭ないくせに何を言ってるんだ、この寄生虫」

『はい。でも今なら少し勇気が出そうなんですよね』

「勇気だと?笑わせるな」

『鉢屋先輩見ていたら、なんだか勇気が出ました』





そう、鉢屋先輩の存在。
今こうして私に覆い被さるこの体が何故だか愛しいと思ってしまった。

壊れそうなのに必死になって平然を装っている、自分より大きな体が可愛いと思えてくるんだ。


きっと私もこうなっていたんだろう。
いつか必ず、来る別れの時に私はこうして平然を装う事が出来るだろうか。





『先輩、友達はたまに寂しいですよね』

「なにがだ」

『だって、それ以上もそれ以下もないもん。別れはいつか来る』




あぁ、声が震える。
三木が居なくなるなんて今までずっと考えないようにしていたのに。

ゆり子ちゃんを大切にする三木も大好きなんだ。
だから、傷ついて泣いている彼女を見ているのだって忍びなかった。

本当は、喧嘩して悲しそうな三木に…その手を離すべきだと何度も思ってきたから。





『鉢屋先輩、彼女は居ますか』

「は?居る訳ないだろ」

『なら、私を彼女にしてみませんか』

「な、何言って…」

『いいんです、不破先輩の代わりで。何ででしょうかね、どうやら私は鉢屋先輩が好きになってしまったようです』





目の前の瞳が見開かれた。
寂しいからとかじゃない、ただ何故かその薄い唇に自分の唇を重ねたいって思う。

恋なんか今までしたことがないから、どんな感じなのかは分からない。


でも三木に感じる感情とは違うコレはきっと





「お前を嫌いと言ったはずだが」

『知ってますよ。でも私は鉢屋先輩が好きなんです』

「…なんで私なんだ」

『そんなの知りませんよ。だって愛しいと思ってしまったんですから』

「……ばーか」

『鉢屋先輩、好き』





顔を赤くした先輩に触れるようなキスをすればゆっくりと優しく肩を撫でられた。





寂しがりやの恋

(先輩って、素になると俺って言うんですね)

(うるさい黙れ)

(ふふ、かーわいっ)







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互いに依存する相手がいて、あまり一緒に居なくなった三郎と、一緒にいてもらえる主の意味不明なお話←

勿論雷蔵は三郎といつも通りにしてるのだけど、三郎は気を使って離れそう。
自分はそうやって離れたのに、同じ境遇の主ちゃんはいつまでも三木に甘えてるからただそれが気にくわないだけ。





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