「私はお前が嫌いだ」
初めてあった時、第一声がそれだった。
あの優しい不破先輩とそっくりな顔をした鉢屋先輩が忌々しそうに此方を睨み付けながらただ一言そう、告げられた。
『あぁ、なんでかなー』
「何が?」
『みきてぃー、私さ…鉢屋先輩に嫌われたみたい』
「は?何かしたのか?」
『いや、してないと思う。さっき初めて会ったときに言われた』
私は今クラスメイトの三木ヱ門と昼食を取っていた。
女友達が少ない私をいつも気を使って仲良くしてくれる男友達。
彼女が居るくせにいつも私を優先してくれるからそのせいで喧嘩とかしてるみたいで。
それは三木や彼女から聞いたんじゃなくて、風の噂。
そりゃそうに決まってる。
彼女じゃなくて友達、しかも女友達を優先してるって言うんだ、怒って当然だと思う。
「…まーたお前余計なこと考えてるだろ」
『何のことかね』
「はぁ、お前のことくらい分かるさ。何て言ったって私は学園のアイ」
『ちっと黙れ。耳たこになる』
「なんだよそれ!!」
『あははっ』
そう、分かってるのに私は三木の横を離れたくないんだ。
彼の隣は居心地がいい。
この捻くれた私の気持ちを汲んでくれる人なんてそうそう居ないもの。
彼女になりたいとかではないんだけど、どうしてもこのポジションは譲る気にはなれない。
きっと依存、いや。寄生しているんだ。三木のこの優しさに。
「なあ、鉢屋先輩に嫌われたっていったよな?」
『ん?うん』
「不破先輩に何かしたとかは?」
『いや、不破先輩とだってそんなに話したことないよ。あるのは本を借りるときにする最低限』
「だよなあ…」
耽々と三木の質問に答えればため息をつかれた。
えぇ、何でそんなため息疲れるようなこと言ったかな。
私が言いたいことに気づいたのか、視線をこっちに寄越した三木の口が開くのを待った。
「お前、面倒な事に巻き込まれるなよ?いくら私でも太刀打ちできないからな」
『え、うん』
「ああああ心配だ」
『えー、私だって先輩に喧嘩売るような事しないよ』
「そうじゃなくてだな…」
何かを言いかけた三木の言葉を遮る様に鐘が鳴った。
私たちの学園は何故かキーンコーンカーンなんてお決まりのチャイムじゃなく、カーンっていうなんともやる気が出ない鐘の音。
アレは誰が鳴らしてるんだろうか。
噂では犬とか聞いたけど。
「昼休み終わったから行くぞ」
『ねえみきてぃー』
「…なんだよ」
『私次サボる』
「だーめだ!!」
『ぎゃー三木のえっちー!』
「そういう事を言うんじゃな…あ、」
『?』
なんだかんだまじめな三木に引きずられて棒読みな演技をして遊んでいれば、いきなり止まった動きに首を傾げた。
なんだ、滝夜叉丸でも来たのかと襟首を掴んだまま動かない三木の手を解いて入り口を見れば
「鉢屋、先輩…」
「田村、と…お前か」
『あ、どうも』
サボりにでも来たのだろうか、だらしなくシャツを肌蹴させた鉢屋先輩がいらっしゃった。
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