「うわああああああ!!!」





今日もこの一言で始まる俺の朝。

隣でもう起床した兵助がため息をついた。






「まったく、相変わらず三郎は藍いじりが好きなのだ」

「はは…ほんとだな」






忍たま長屋から聞こえるはずのない女の子の声。
毎朝毎朝いつもこりない子だと思う。

まあ俺はそんなあの子が大好きなんだけど。

そろそろ来るかとゆっくり体を起こして布団をたたむ。


バタバタと忍のたまごにあるまじき足音が近づいてくる。






『勘ちゃん!!!』

「お、来た来た」

「藍、おはよう」

『兵助おはよー!!うわああん、勘ちゃん聞いてよー!』

「はいはい、どーしたんだ?」





スパ−ンなんて小気味いい音ともに姿を表したピンク色の制服が俺の胸に飛び込んでくる。
うん、いい感触。

もう当たり前の光景に最初こそ顔を赤くしていた兵助も慣れた様子で朝の挨拶をしてる。


半泣きでぐりぐり顔を押し付けてくるこのカワイ子ちゃんは俺の幼馴染であり、片思いの相手。一条藍。





『三郎がまた褌一丁で追いかけてきたのっ!!』

「あ、今日は褌なんだ」

「全く三郎は…」

『しかもね…今日は』





顔を真っ赤にして振るえる体を自分で抱える藍に首を傾げる。
更にあるのかと顔を覗き込みながら話の続きを待った。






『こ、こ…』

「こ?」

「おい藍っ!!」

『ぎゃ、変態!』

「三郎…」





だんだんと涙目になってきた藍に眉間の皺が寄った瞬間、珍しく慌てた三郎が部屋に入ってきた。

いつも俺たちの部屋になんか来ることはないって言うのに珍しい。


本当になにかがあったのだろうと、兵助も正座して自分のスペースで正座をして息を切らす三郎を見ている。






「お、お前勘右衛門に私が言ったことを言うつもりじゃないだろうな!」

『な、なんでよ!別にいいじゃない!!』

「ちょっと三郎、藍に何したんだよ?」

「まさか襲ったとかじゃないだろうな…最低なのだ、三郎」

「ちょっと待て!私がこんな女襲うわけないだろうが!」

『何それ失礼ね!』






俺が問い詰めるように三郎に据わった視線を送ると同時に兵助が冷めた視線を送ってる。
三郎は顔を赤くして否定すると、その言葉に藍が同じように顔を赤くしてまくし立てている。

なんだかその光景に俺は自分の体温が下がる。
嫌な予感がした。





『じゃ、じゃあさっきの言葉は嘘なんだ!』

「ち、がっ…!」

『三郎の…バーーーカ!!!!あほんだらー!!』

「え、わ…藍!?」

「っち!あいつ勘違いしやがって…」

「あ、三郎…!」





大きな目から涙を流して出て行ってしまった藍に中途半端に手を伸ばしたまま固まれば三郎が舌打ちしながらあの小さな背中を追いかけて行ってしまった。

未だに状況を飲めない俺たちは固まったまま。





「あ、遅かったか」

「雷蔵」

「おはよう二人とも。今藍と三郎来てたよね」

「うん」

「一体何なのだ?あの二人」

「あー、いや…」





三郎とすれ違いで姿を表した雷蔵が困ったように俺をちらりと見た。
悩み始めるのかと思いきやそのまま言いにくそうにあーだのうーだの言ってる。

あぁ、何か分かっちゃったかも。


まあなんとなく予想は付いてたからね、うん。



きっと三郎が





「藍に告白したんだろ?」

「勘右衛門…」

「え!?三郎って藍が好きだったのか?」

「あー…うん。そうみたいだ」




自嘲気味に笑った俺に雷蔵は戸惑いつつも首を縦に振った。
兵助が心底驚いたように目を見開くのを横目に俺は寝巻きから制服に着替えるため立ち上がる。

俺は藍が好きだなんて誰にも言ってないけどきっと雷蔵は気づいてたんだろうな。






「兵助、雷蔵行ってていいよ。俺、食欲ないんだ」

「え!?」

「勘右衛門、僕は…」

「ちょっと一人にして」





何か言いたげな雷蔵に一生懸命の笑顔を作って半ば追い出すように二人を食堂へ行かせた。

一人っきりになった部屋に俺は座り込む。

幼馴染だからと行動しなかったのは俺の責任だ。
今更三郎が告白した事をなんと言っても仕方ない。


藍の様子からして満更でもないみたいだし。






「あーあ」






ずっとずっと大事にしてきたつもりだった。
でも、それって言い訳だったんだろうな。藍の一番はいつだって俺だったから、油断もしてたし
何よりこの関係を壊すのが怖かった。





「気づいてたのになぁ」





三郎が藍を好きなことくらい。


見なかったことにしたのは、俺。

乾いた笑いが部屋に響いた。



きっと今頃藍に追いついた三郎は彼女を笑顔にする為に必死になってんだろうな。


ただ一つの俺の居場所はもう無くなってしまったんだろう。


彼女の特別はきっともう三郎が居るのだろうから。








―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

不憫な勘ちゃん、そして一回も出番のない竹谷←

最初ギャグにしようとしたままのまさかの悲恋オチ。
勘ちゃんごめんね!!





← / →
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -