※鉢屋三郎視点






「いて…」





放課後、藍を抜いたいつもの五人でふざけていたら突然現れた女に平手打ちをされた。

理由は不明。ごちゃごちゃと何かを言っていたが、聞き流したから分からないが相応しいかもしれん。
まあ適当に遊んだ女だろうとは思うが如何せん記憶にないのだ、仕方がないだろう。






「失礼します、鉢屋三郎です」






私が来たのは医務室。
放っておけば頬の痛みなどなくなると言ったのだが一応冷やしておいた方がいいと雷蔵に言われ、こうして来たわけだ。


一言告げて戸を開けようと手を伸ばせばその扉は自動で開いた。





「三郎!」

「藍、お前当番だったのか」

「うん!!うわあ、三郎頬っぺた…と、とりあえず早く入って!」

「ん」





扉を開いたのは藍で、大きな瞳を瞬かせながら私の顔を見てまるで自分が平手をくらったように痛そうな顔をした。

別に痛くも痒くもないんだが、床に座って藍の手当てを受ける私の頬に恐る恐る触れる手は嫌いじゃない。


その伺うような目も、つい悪戯心が沸き上がってしまう。





「三郎、痛い?」

「あぁ、凄く」

「っ、とととりあえず!冷やさなきゃ!!」





元から汲んであったのか、桶に手拭いを浸けてそれをよく絞り私の赤くなっただけの頬に優しく押し付ける。

それと同時に顔をちょっとだけしかめれば、泣きそうな目をして視線がさ迷う。


半分猫又などと聞いたときにはまた学園長のくだらない余興かとも思ったが、表のこの男はまるで猫らしくない。

たまにわざわざ狭い所から侵入するくらいしか思い浮かばないしな。



言うなれば気の弱い兎のようだ。


今だって私の悪戯に素直に引っ掛かっているし。





「三郎痛いの?雷ちゃん呼ぶ?それとも伊作先輩を…」

「いい。自業自得だからな」

「ん、でも」

「こうして、お前が手を当てていてくれれば治る気がする」

「俺、っ!?」





自業自得だなんて思ってない言葉をはいて、焦る藍の手を引っ張り肩を抱き寄せれば医務室に居たせいか、ほんのり薬の匂いがする。

腕の中の藍は流石は保健委員と言うか頬を冷やしている手を外さなかった。


顎を引いて顔を見れば案の定、顔を真っ赤にした兎が一匹。






「さ、三郎…?」

「…っ、ふ…くくっ!!」

「!嘘ついた!」

「わ、悪い!ついお前が可愛いから」

「うあああ三郎のあほー!心配したじゃないか!」




さっきまで伺うような視線を寄越してた癖に、これが冗談だと分かった瞬間涙目で私の装束を掴んで揺らす。

そんな平手打ちくらいでそこまで心配するのはお前くらいだ、藍。
これだから面白い。





「たかが平手打ちだろう、引っ掛かるお前が悪い」

「だって分からないだろ!くのいちの子…痺れ針とかたまに仕込むから…」

「…そんなのが仕込まれてたら避けるさ」

「もしもの事があったら分からないもん」

「男がもんとか言うな」





べ、と舌を出せば不機嫌そうに口をへの字に曲げた藍が目をそらし段々と顔色が悪くなる。
そんな反応にもしかしてやられた事があるのかと思いつつ、確かにくのたまなら有り得なくはない。
少し想像して思わず顔がひきつった。






「とりあえず、少し腫れてるからちゃんと冷やしておいてね」

「へいへい」

「ところで皆は?」

「あいつらなら多分私たちの部屋で話し込んでるんじゃないか」

「そっかー」





未だに私の頬から手を離さない藍は自分から聞いておいて気のない返事を返してくる。

たまにあるこいつの気紛れは意味の分からない所で出てくると思う。
猫のような目が瞬きもせず私の頬をずっと眺めていて、何だか少し居心地が悪い。





「藍、そんなに私に見惚れてどうした」

「ん、三郎ってお面つけてるからちゃんと冷えてるのかなって思って」

「…大丈夫なんじゃないか?」

「他人事みたいに言って…まあ、三郎が大丈夫って言うならいっか」





嬉しそうに笑った藍に仮面の下が熱くなったことは誰にも言えない秘密。

藍はひょっとしたら私以上に人をタラシこめるのではないだろうかと考えてやめた。
コイツに負けるのは何だか癪だ。






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途中で思い出した三郎って化粧じゃなく仮面なんですよね。赤くなるわけないじゃんと思いつつ、そんな事したら今後の描写絶対無理って思ったからあえてそのままにしました!←




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