宵月は天才だった。


今の天才と言う言葉は同じ学年である三郎にも1つ下の綾部にも使われているけど、
宵月は違う。

本当の天才だった。


成績優秀実践も他の忍たまの頭何個分も抜きん出ていた。





『久々知』






そんな彼女は誰よりも強く、優しかった。
俺が一年の時、初めて彼女を見たときは怖い人なんだと感じた。

無表情、今で言えば中在家先輩が当てはまる。
でも中在家先輩は、怒った時には笑うしそれなりに分かりやすい変化はある。


宵月、彼女は息ですら笑わない。





そんな彼女が、幼い頃の俺は怖かった。






『一年い組の久々知兵助』

「は、はいっ!」

『…お前、私が怖いのか』

「そ、そんな事は…ない、のだ…じゃなくてありません」

『…』






今でこそクールとかなんとか呼ばれてるけど、そんな俺だって一年の頃はまだまだガキだった。

突然に話し掛けられた俺は案の定挙動不審になって、忍術学園において歴代最強と呼ばれる彼女を怒らせたかと目を力一杯閉じて次の言葉を待つ。






『久々知、そう怖がらないでいい。何も取って食ったりなどしない』

「へ…」

『私が来た理由は、火薬委員会の召集だ。お前は入ってまだ間もないから迎えに来てやったんだ』

「かやく、委員会…」

『そうだ。分かったなら着いてこい』





そう言って、幼い俺に背中を向けて倉庫へ歩いて行った。
あえて人間の弱点である死角を向け歩く彼女の不器用な優しさは、まだ入学したての俺には理解することは出来なかったけど、ゆっくりとした歩調が気遣ってくれている事だけは分かる。







『なぁ久々知』


「はい?」


『豆腐、くっついてる』


「ーーーー!」






自分の唇の横を人差し指でさしながら彼女が言った。
ふわっといい匂いがして、桜の花びらが散りながら彼女を包むように流れてる。


少しだけど、口許がほんのり弧を描いていた。















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