ただただ、愛してた。

子どもだと言われようが、無謀と言われようが

俺は彼女が好きだった。



彼女が卒業する頃、想いを告げてやっとの事で特別な関係へと昇格した。

俺だけに見せてくれる笑顔、
俺だけに向けてくれる視線、
俺だけに紡いでくれる言の葉。



忍には三禁と言うものがある。

でも、そんなの関係なかった。


忍術学園最強と呼ばれる彼女を恋人と呼べたのは俺だけ。


正直な話、
恋が成就して
みんなに羨まれて天狗になっていた。



俺の全てを彼女に託した。

何もかも初めてな俺を、彼女は愛しそうに見つめて見守ってくれた。




あぁ、そうか。

俺は甘えてばかりだった。







『別れよう』






目の前の彼女がそう言った。

夕刻にいきなりでも姿を現してくれた彼女。
嬉しくて、たまらず抱き締めようとしたら真っ黒な瞳で俺を見て、別れを告げた。






「…笑えないんだけど」


『私が冗談を言っているように思えるか?』






今の俺の視線の先は畳。

すっと体が冷えるような思いに、一歩後ろへ後退りする。


嘘だ、冗談だ。

きっと視線を上げればいつものように微笑む彼女が居る筈だ。



そう言い聞かせている間にも、彼女が纏う空気に手が震えてくる。






『兵助、』


「…んで、だよ」






ため息をついて子どもを諭すように、それでも纏う空気は冷たい彼女。

色々な感情が重なって、遂に声まで震えた。


忍のたまごとして失格かもしれない。

それでも、納得がいかない。






「なんで、だよ…甘えすぎたなら謝る…俺は弱いけど…それでも、あんたを想う気持ちはっっ」


『誰よりも強い、そう言うのなら別れてくれ』


「っ、」


『もう、お前を愛せない。無理なんだ』


「理由はっ!?せめて、理由を教えてくれよ!」


『言わせたいのか』






その一言に、俺は目を見開いて顔を上げた。
彼女の瞳は冷たく、一度だって見たことのない表情に立ち竦む。


突然やって来た俺の愛しい人は、まるで全く別の人間のように変わってしまった。


さっきのように言葉も出てこない。


ただ彼女の冷えきった瞳を黙って見つめ返すことしか出来ない。







『…さようならだ、兵助』







くるりと音を立てることもなく俺に背中を向けて、一瞬で彼女は消えた。






「………、宵月…っ!!」






すがる様に出た彼女の名前は、余りにも弱々しく俺ではない何かが呼んだのではないかと思うほどだった。


ろくな話もできなかった。

きっと俺が取り乱してしまったその時からこの結末は揺るぎないものとなってしまったのかもしれない。




何度も何度も頬を何かが伝う。

脚先からどんどん冷たくなっていくような感覚に、頬を伝うそれは場違いに熱い。


その温度差が、先程の俺たちを現しているようでもっと心が軋んだ。




痛い、辛い、苦しい。

どんなに酷い怪我をしてもこんな風に思った事は無いのに、俺の心の中はそれだけを痛烈に訴える。


その痛みも苦しみも辛さも、どうやって緩和すればいいのか分からない。



俺はその場に踞ってる事しか出来なかった。










墜ちた赤の絲

(それは、音を立てて)






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