俺は今、真っ白な空間に真っ白なタキシードを着てある人を待っていた。
あれから何千、何百と時が過ぎた。
そしてやっとあの時果たせなかった誓いを、俺はかなえようとしている。
「おっ、似合うねー!兵助!!」
「勘右衛門」
「やっとって感じだな!」
「本当だ」
「ふふ、おめでとう」
正装に着替えた俺の友達が部屋に来ていた。
あの時より皆大人びて、今はこの平和な世で再開することができた。
今は平成という年号。
そこでこうしてまた全員がそろうことができた事に嬉しくなる。
「新婦の方はまだなのぉ?」
「あ、かが里さん」
「あけ里さんが行ってると思いますよ」
「仕方ないだろう。女には色々準備があるんだ」
「伊作先輩に誠士郎さん」
そう、集まったのは俺たちだけじゃない。 忍隊の人たちも、先輩も後輩も集まってる。
伊作先輩はあけ里さんと付き合っているらしい。
まさかとは思ったけど、俺たちが再開したときにはもう付き合っていた。
「今回も久々知に負けるなんてな…」
「ちょ、どういう事ですか立花先輩」
「今度こそとは思っていたのになぁ?」
「やめて下さいよ七松先輩!」
「おほー、兵助も大変だな。美人な嫁さんもらうと」
俺の部屋に続々と入ってくる先輩たちに少したじろいでいると、ノックをする音が聞こえた。
「伊作ー、宵月さん用意できたわよ」
「あ、うん!!」
「っ!!」
「お、緊張してる」
あけ里さんの優しい声が聞こえ、ゆっくりとその扉が開かれる。
少しずつ見えてくる純白。
俺をからかっていた三郎や八も黙ってその扉が全開になるのを待っている。
「…宵月」
『待たせたな』
扉が開いて、宵月の姿が視界に入る。 あまりにも綺麗な姿にやっと搾り出した名前。
色白な肌に乗せられた赤の口紅。 恥ずかしげに伏せられた瞳を長いまつげが囲って、綺麗という言葉に収まらないほどに彼女は神秘的だった。
「綺麗じゃないか、宵月」
『ありがとう、誠士郎』
「おいっ、兵助は何黙ってるんだ!」
「あ、え…豆腐みたいに綺麗で…じゃなくて豆腐以上に綺麗だ!!」
三郎にどつかれてやっと捻り出した言葉に周りからはため息をつかれた。
さすがの俺もため息をつきそうになったけど。こんな時に豆腐って…
なんでまともな言葉の一つ言えないんだと思いながら恐る恐る宵月を見れば小さく笑った彼女が目の前に居た。
『ありがとう。兵助、最高の褒め言葉だ』
「っ、!!」
『兵助もかっこいいよ。豆腐みたいに真っ白のタキシード』
「あ、りがと…」
「何だこのばカップル」
「宵月さんが豆腐に汚染されてるぅ!!」
周りがちゃかしてくる声さえ入らない俺は目の前の宵月を見つめていた。 色んな思いが溢れそうになるのを堪えるのに必死でもういっぱいいっぱいで。
呆れた顔をして部屋を退出する皆に気付かなかった。
すると白い手袋に包まれた細く綺麗な指が俺の頬を撫ぜる。
あの時の光景がフラッシュバックするけど、今は確かに彼女はここに存在しているんだ。
「宵月、やっとここまで来たな…」
『うん』
「もう離さないから」
『うん』
「あんな思い二度としない。俺が守る」
『兵助』
細い体を抱き寄せ、優しく抱きしめた。 あの時とはもう違う。
昔は少し豆や傷で固かった手は柔らかく、傷一つない。勿論昔の宵月の手だって愛していたけど、この手も凄く愛しい。
これからは俺がこの手を引いて守っていくんだ。
宵月の首筋に顔を埋めると桜の香りがする。
「…いい、匂いだな」
『桜の香り袋を貰ったんだ』
「香り袋って、今もあるのか」
『あぁ、あの子達が作ってくれた』
嬉しそうに、幸せそうに笑った宵月に誰がプレゼントしてくれたのか分かった。
きっとあの子達に違いない。
俺は宵月の手を握ってリードするように歩を進めた。
「さぁ、そろそろ行こうか」
『あぁ』
俺達はゆっくり、教会へ向かった。
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