やっと辿り着いた部屋。
そこには城主を守るように立つ屈強そうな男と、人相の悪い豪華な着物を纏った男。





「三郎」

「やっと八つ当たりが出来そうな人間がいたな」

「…任せていいか?」

「当り前だろう。あれくらいでなくては、私には物足りない」

「そうだな…頼んだ、三郎」

「ふっ、あぁ。いってこい!!」





狐の面をずらし不敵にほほ笑んだ三郎はいつもの雷蔵の顔ではなかった。
黒髪のさらりとした見たことがない仮面を纏い、辺りを狂気で包む。これが武術で六年生を凌ぐ三郎の本気。

それを見届けられないことを少し残念にも思うが、走り出した先に居る城主…宵月たちや忍術学園、そして罪もない子供たちを巻き込んだ張本人を視界に入れればそれも消えた。





「お前を、消しに来た」





溢れる怒り、浮かぶ忍術学園の同級生や先輩。後輩たちの顔。
そして愛しい宵月と、その家族。

何故か笑みが込み上げてくる。仲のいいアイツらが今の俺を見たらどう思うだろうか。



今まで押し込めてきた想いがあふれ出てくる。






「き、貴様はなんだ!!!」

「俺は…宵月の」

「あの忍か…くそ、倅が謀反を起こしたのもあやつのせいじゃろ…たかが忍風情に絆されおって」

「お前はそのたかが忍風情に膝をつくんだ」




俺は手裏剣を懐から取り出して城主の足元すれすれに放つ。
城主は情けない声を出してその場に尻餅をつく。

簡単に殺してはやらない。

じわじわと、苦しんだ人たちの分ほど傷付けて痛みにもがき苦しめばいい。





「…はは、」

「い、命だけは!!命だけは、そうすればお前をこの城の次期忍頭にしてやろう!!」

「俺が欲しいものはそんなものじゃない」





そう、欲しいものは誰かがくれる物なんかじゃない。
ましてや誰かに与えてもらうものでもない。

そしてそれはどんなに手を伸ばそうとも、泣きわめいても、もう二度とあの笑顔は向けてもらえないんだ。
兵助と、名前を呼んでくれることもないんだ。




「俺が欲しいものは、お前が奪ったんじゃないか」

「奪った…って、お前もあんな女に誑かされたのか!!忍のくせに…!」

「その口、縫ってやろうか?」

「っっ…!!」

「宵月は、他の女と比べることも烏滸がましいくらいいい女だ。お前如きがあんな女などと呼んでいい人じゃない」

「がっ…!」





俺は距離を一気に縮め肥えた腹に一撃重い蹴りを食らわせる。
こんな男が、どうして

腸が煮えくり返る思いが爆発する。





「お前のせいで…何人が悲しんで、何人の子供たちが涙を流したと思ってる!!」

「ひ…た、助け…」

「お前のせいで!!宵月は、宵月は死んだ!!!!」





嘔吐するこの男の顔面を力一杯蹴り吹っ飛び壁に当たったその足に苦無を数本飛ばす。

もう二度と愛しい人に触れられない痛みを、さよならもありがとうも…





「愛してると言えなかった悲しみがお前に分かる筈もない!!」





俺だけじゃない。
俺の背中を今まで押してくれた、支えてくれた人たちだって…
彼女を想う気持ちはどう足掻いたって伝えられないんだ。

痛みと恐怖ですでに意識を飛ばそうとしている男の髷を引っ張って意識を戻させる。


うつろな目が明いた瞬間顔を殴り続けた。

自分の拳から血が出ようと、力を込めすぎて折れた骨すら気にせず。





「も…や、め……」

「苦しいか?痛いか?死にたいか?」

「…す、せ……すい、ま…」

「それ以上に痛い思いをしてる人がいるんだ。当然だろ?お前は…苦しんで死ね」





口元が持ち上がる。
やっと、やっとこいつを殺せる。

そう思ったら笑いが止まらなくなってくる。

俺は壊れてしまったんだ。
利吉さんには綺麗事を言って、本当は心にある黒い感情を、殺意を解放したかっただけなんだ。


頬を伝うものの正体は何か分からない。
返り血か


まあどうでもいい。

息もたえたえな男を見下し、苦無を振り上げた。





「死ね」






こいつを殺したら、俺も宵月の元に逝こう。
彼女が居ない世界なんて俺には辛すぎる。

こんな感情に飲まれた俺はもう忍術学園の地を踏むことは出来ない。





「さよならだ。何もかも」





苦無をまっすぐに目の前の男へ振り下ろした。










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