「僕はあけ里さんを守るよ」




伊作先輩はそう言ってあけ里さんの頭を撫でた。

もう少し追っ手や何かしらが落ち着いたら、彼女の体を皆の元へ運ぶと言って悲しそうに目を伏せた。





「どうしてこんなに優しい人たちが犠牲にならなくちゃならないのかな」

「伊作…」

「分かってるんだよ、仕方が無いことだって。忍である以上命なんていつ落とすかわからない状況だって事くらい、さ」




伊作先輩の伏せられた瞳が震える。
彼が忍に向いていないとよく言われているのは学園の皆が知っている事実。それでも、その優しさに救われた人々は間違いなくたくさん居る。

度重なる戦争で命を落とすなんて日常茶飯事なこの時代。
それを知って尚伊作先輩は救う手を伸ばすことは辞めなかった。





「兵助、留三郎、三郎…頼んだよ」

「あぁ」

「利吉さん、皆を宜しくお願いします…!」

「任せておいてくれ」





あけ里さんの頭を撫でていた手を止めて小さく頭を下げた。
きっと伊作先輩は卒業した後も、其々の城に就職してかつての同級生と刃を交える事になっても…
そう考えて辞めた。

そんなこと考えるなんて野暮にも程がある。






「先輩や、あけ里さんの意志は私たちが必ず」

「三郎…」

「行こう久々知」

「こんな事、早く終わらせてしまおう」

「はい…!!」

「怪我、しないようにね…」





あけ里さんの遺体と一緒に俺たちを見送る伊作先輩に力強く頷いて俺たちはまた走り出した。















「どういうことだ?」






カラハツタケ城に着くとそこは戦火が立ち上っていた。
驚きに目を見開く俺たちに利吉さんが苦無を構え城の城壁を指さす。





「とりあえず入るしかない」

「…そうですね」

「混乱に乗じて俺たちは使命を全うする」





食満先輩に頷いて俺たちは城内に侵入した。
侵入した先で見た、同じ城の者同士が争う光景に思わず足が止まりそうになる。

しかし、若い兵たちは俺たちを見て襲うどころか頭を下げる始末。なにがどうなっているのかと疑問に感じながら場内を走った。





「止まれ!!」

「アレは…カラハツタケの若殿…?」





利吉さんの言葉に従えば、三郎が小さく洩らした。
前線で戦うのは確かにこの城の嫡男の若殿。

刃を交えているのは恐らく旗本。





「まさか宵月が…?」

「そんな…っ」




しかし顔すら合わせたことがない俺たちを襲ってこないのは若殿の家臣と思われる者たちだけ。
もし宵月がすでに手を回していたと言うのなら、きっとこうなる事を見越してに違いない。


旗本を倒した若殿は部下に耳打ちされ、俺たちの方に顔を向け優しそうな笑顔で頷いた。





「…兵助君、三郎君」

「はい」

「恐らく城主はこの近くだ。私と食満君はあの方を護衛しながら敵の数を減らす」

「任せたぞ、久々知に鉢屋」

「…了解しました。兵助は必ず城主の元へ」

「な、三郎!!」

「久々知殿!!」





利吉さんや食満先輩にあっさり頷く三郎に反論しようと口を開いたが、それよりも早く誰かが言葉を遮った。





「あ、なたは…」

「頼みましたよ!!」

「何を言って…俺たちはあなたの父上を!!」

「私は、平和になってほしい!その為なら、何かを捨てる事を厭わない!宵月殿の受け売りだがな!」





優しくも強く微笑んだ若殿に目を見開いた。
ここにも、彼女が残した意志が強く根付いている。





「行くぞ、兵助」

「、あぁ!!」






彼女が残してくれた道を進む。
最後まで俺たちを想い、託してくれたこの道を。

三郎に背中を押されて俺たちは走り出した。



もう立ち止まらない。
ここまで皆が繋いでくれた道を。

じわりと宵月から借りた頭巾が熱を持った。












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