忍術学園を出て時間が結構経った。 なのに俺たちの足並みは落ちるどころかどんどん増していく。
その時、利吉さんが目を鋭くさせ手裏剣を草むらに撃った。
そこにある気配に散らばっていた全員が離れながら立ち止まる。 追っ手だろうかと気配を探ろうと武器を構えた。
「お待ち、ください…!!」
「君は…あけ里!?」
「あけ里…?もしかして、宵月の…」
金属音がぶつかり合う音がして、ガサリと動いた草むらから出てきたのは俺たちとあまり年も変わらない少女。 所々傷や泥がついているが、かが里という男に似ている。極めつけは利吉さんの呼んだ名前だった。
三郎が黙ってるあたり変装でもないのだろう。
「利吉様っ!!」
「佳乃ちゃん!」
「皆、この人たちは大丈夫よ…出ておいで」
「はい…」
あけ里さんの後に続くようにでてきた女の子は利吉さんに飛びつき、その後を追うようにまだ10に満たないような幼子を連れて四人の男女が出てきた。
子供とは聞いていたがあまりにも小さい子供過ぎて利吉さん以外の全員が押し黙る。
こんな幼い子供を人質にする時代なのだと、痛く感じた。
「黒髪のあなた、もしかして主の…宵月様の」
「っ、久々知と言います!!」
「あぁ、やっぱり…お話は聞いてました。後ろに控える方々も主の後輩さんたちですね…お待ち、しておりました」
そういって微笑んだあけ里さんの笑顔が宵月と被った。 きっとほかの皆も思ったのだろう。驚いたように息を飲んだ音が聞こえる。
「申し遅れました、私はあけ里。宵月様の部下、そしてかが里の妹でございます」
「あけ里、さん…っ!その怪我…いますぐ手当てをっ!!」
「その必要はございません。たいしたものではありませんので」
自分の名前を名乗り姿勢を正すのもつらそうなあけ里さんに伊作先輩が駆け寄ろうとするのを柔らかい言葉で強く拒絶をした。 その視線は伊作先輩の言葉で心配そうに視線をあけ里さんに向ける子供たちに向けられていた。
まるで安心させるように首を傾けた姿に俺は唇を噛んだ。
「ほら、あなたたちも」
「っ、わ…わたしは佳乃と申します!!」
「虎助と言います」
「千里ですわ」
「夜斗…とこの子はあびる」
利吉さんに抱きついていた女の子はあけ里さんのそばに戻り姿勢よく頭を下げる。 それに続くようにそれぞれが自分の名を名乗り頭を下げた。
俺たちも自己紹介を簡潔にする。
「あけ里」
「利吉様、申し訳ございません」
「…あぁ」
自己紹介が終わり、顔を険しくした利吉さんにあけ里さんが困ったように謝る。 その意味が分かった俺たちは未だに流れ続けている血を見た。きっと、長くはない。
城から子供たちを庇い、連れ出すなんて相当な腕の持ち主なのだろう。 それでもやはりこれだけの重症を負っていた。恐らくその場から動かないあたり動けないんだと分かって拳を握る。
「皆さんには申し訳ありませんが、あまり時間がありません。この子達を、お願いしても宜しいでしょうか…」
「そ、そんな…あけ里お姉ちゃんはどうするの!?」
「ごめんね、私ちょっと行けないの」
「僕、あけ里さんが来ないなら行きません」
「ねぇね?」
「…ご、めんね」
どことなく綾部に雰囲気が似た夜斗があけ里さんの袖を握り無表情に見つめている。 その傍に居た一番幼いあびるも自分の服を握って不安そうな目を向けた。
他の子供たちも目を潤ませあけ里さんに視線を送ってる。
「ねえ、皆約束は覚えてる?」
「…わすれました」
「母上との約束を?」
言い聞かせるように話すあけ里さんの言葉に苦虫を潰した様な顔をした夜斗が俯く。 きっとこの子達も勘付いているんだろう。無言のまま離れない姿が胸を強く締め付ける。
沈黙が訪れ、俺は夜斗に近づいた。
そして、
「出会ったばかりだけど、俺たちは君たちが大切なんだ」
「く、久々知さん?」
「君たちのお母さんが大切にしている君たちを、守らせてほしい…同じように、形は違えども宵月を愛している俺たちに」
「っ…!!」
どうやって愛情を注いであげたらいいかわからない。 宵月やあけ里さんのように女性でもない俺が出来ることは、精一杯抱きしめてあげることしか出来ないけど…
きっとこの心の中に生まれた気持ちは確かに愛だと思ったから。
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