「宵月から貰った文。それと、私への彼女からの依頼だ」






俺が頷いたのを見ると利吉さんは懐から紙二枚出した。
密書ではなく、文。


恐らく疑われない為だろう。
凄腕の忍と謳われる彼女が重要な物を文で出すわけがないと、周りの自分を見る目を把握した上での行動と思われる。






「内容は本日、丑の刻にて故郷襲撃」それだけを書かれていた。宵月には故郷と呼べる場所はここしかないからね」






綺麗な字で書かれた簡潔な文章。
忍が使う暗号も何も使われていない。

次に利吉さんは依頼の文を開く。





[久々知の家を守ってほしい]





ただ、それだけ。

でもそれだけでも充分だった。





「俺の家も、狙われていたんですね…」

「…あぁ」






全てが繋がった。
きっと宵月が子供たちと暮らしていることは現時点で俺と利吉さんしか知らないだろう。

他の皆が納得いかない顔をしているのも分かる。





「…宵月は、子ども達と暮らしていたんだ。勿論彼女が生んだ訳じゃないけどね」

「戦争孤児、って聞きました」

「そう。その子達も城に囚われていたんだよ。人質としてね。恐らくだけど逆らったりでもしたらその子達の命はないとか言われたんだろうな」






その言葉に上級生ではない忍たま達も気付いたのだろう。
卑怯だ、と所々で小さく声が聞こえる。

そんな中、食満先輩が震える拳を抑えて一歩前に出た。






「…その子達は、どうなったんです?」

「宵月には四人の部下がいるんだ。もう一人の忍隊、かが里の妹がね」

「しかし城の中なんて一人じゃ無理かと…」

「そう。だから宵月は忍術学園を襲ったんだよ。周りの目を自分に向けさせ、尚且つもし裏切った時には必ず自分達を仕留めさせるよう仕向けて城の殆どの忍を監視につけさせた」

「因みにその忍たちは殆ど宵月達が片付けてくれたよ」

「土井先生…!」

「今は私や斜堂先生、厚木先生と山本先生が校内にいるが他の先生方は逃げた忍たちの追撃に出ている」






今は安全だと笑った土井先生も所々怪我はしていたが特に大した怪我はなさそうで。

下級生たちは土井先生の優しい笑顔に安心したのか大きい声で泣き始めた。
あの人の困ったような笑顔は確かに安心させる効果があるらしい。


上級生たちもほんの少し方の力を抜いた気がする。





でも俺は、






「利吉さんは宵月の命より俺の家を優先したんですね」

「…そうだ」

「お、おい兵助!それはお前当たるところじゃ…」

「利吉さん…父と母を守ってくださって…ありがとうございましたっ…!」






宵月をさっきまで俺が寝ていた布団に寝かせ、地に膝をついた利吉さんへ頭を下げた。

一瞬でも殺気立った俺を止めようとしていた勘右衛門と八左ヱ門は不自然に手を上げた形で止まってる。


利吉さんも宵月に好意を寄せていたのなんか知ってる。
卒業してどうなったかは知らなかったけど、彼女を見る目はいつも優しかったからきっと今も。






「でも利吉さん、俺は…何を捨ててもソイツを」

「おーい!下級生は皆私についてきなさい!怪我をしている者は近くにいる者と新野先生の所へ!その際把握のために名前を小松田くんに伝えていくように!!」






下げていた頭を上げ、姿勢を正した俺が言うことを分かっていたかのように土井先生の大きな声が言葉を遮った。

そしてその大きな声のお陰で、怒りに震えていた手に気付く。俺は、下級生の前で一体何を言おうとしていたんだ。

それに気付いてやっと、自分が何を言おうとしていたのかを自覚する。






「…土井先生、すいません」

「ん、何の事だ?」






今度は土井先生に向け頭を下げたら、いつもの優しい笑みを浮かべ俺の頭を撫でた。
男らしいゴツゴツした手が暖かくて、折角止まった涙が一粒こぼれだす。

こんなに自分は小さいのだ。
悲しみでこんなにも涙が出るなんて、忍びのたまご失格だ。





「兵助…」

「宵月がここを襲わなければならない理由が二つ。そして…」

「さっきのプロ忍者ってことですか」

「さすが六年生だな、食満君。アレは彼女以外に雇われたプロたちだ。今は下級生がいないから言うが…軽く五十人近くはいた」

「そ、そんなに…!?」





利吉さんはかすかに燃えている学園の林を指差した。
確かに複数の気配はあったが、そんなに居たとは俺も気づかなかった。
五十近くのプロが襲ってきたらさすがの先生やプロに近い六年生と言えどもこの学園を守りきれない。

例え守れたとしてもたくさんの被害が出たはずだ。
きっと、死人も…


俺は宵月の手を握った。
この小さな女の手で武器を握り、自分の大切なものを守るために己を慕い付いてきた人たちを失う。
どれだけの負担がこの細い体に圧し掛かっていたのかと考えるだけで涙が止まった。

彼女は最後まで涙一滴見せず耐え忍んだのだ。
それなのに俺は泣いてばかり。




「ごめん」




冷たい手を撫で無意識に呟いた。














 / 





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -