「…ーーーけ、…すけっ…!!兵助っ!!!」






俺を呼ぶ三郎の声で目を覚ました。
視界を囲みながら顔色を伺うように見ている同級生の四人。

皆所々汚れてはいるが大きな怪我はしている様子はない。






「みんな、無事だったか…っ、そうだ!宵月…!宵月は!?」






安心したように息をついたのも束の間、宵月を名前を出せば気まずそうに逸らされる視線。







「…宵月、さんは…今六年は組の先輩たちが探しに行ってるよ」

「雷蔵…」

「…嘘ついたって仕方ないだろ」







悲しそうに、膝の上で拳を握った雷蔵を勘右衛門がこれまた悲しそうに見てる。

三郎は唇を噛んでいて、それを八左ヱ門がやめさせる。







「宵月はっ、俺たちを守ろうとしてっ…違、違うんだ!!」

「兵助、落ち着け」

「俺が宵月を探しに…」

「その必要はないよ」

「善法寺、伊作先輩…」








俺が布団から這い上がった時、襖が開き善法寺先輩が顔を出した。

結局ふらつく体を八左ヱ門に支えてもらいながら縁側に出ると彼女の忍隊の皆が横たわっている。







「よいづき…?」






そのすぐ側で食満先輩に抱えられている宵月は白く細い腕を力なく宙へ投げ出していた。


俺以外の全員の目が見開く。








「宵月…宵月っ…?」

「っ、久々知…」

「食満先輩、宵月…腹に銃弾が。俺を庇って…っ、善法寺先輩!早く、早く宵月の手当てを!!!」






支えてくれていた八左ヱ門を押し退けて宵月に駆け寄る。
そうだ、あんなに出血をしていたんだ。

早く新野先生に見てもらなわなくては。きっと忍隊の皆も怪我を。



食満先輩から半ば奪うように宵月を抱き寄せた。







「っ、久々知!!」

「……つめ、たい?」






俺の腕の中で眠るように瞳を閉じている宵月は見たことないくらいに傷付き、そして冷たかった。


なんとか体温を感じようと強く抱き締めても宵月から温もりを感じない。いつもそんなに体温は高くない彼女でも、こんな冷たさ…

まるで、






「…宵月、寒いな」

「お、おい兵助!」

「三郎、湯豆腐作ろう。宵月が冷たいんだ。手当てをしてる間に作ればちょうどいいだろ」

「っ…!」

「豆腐だから飲み込みやすいし、何より宵月も豆腐が好きなんだ」







豆腐を食べてる俺が好きだから、宵月も俺を幸せにしてくれる豆腐が好きだって。

何か言いたげな食満先輩や三郎を無視して部屋に上がる。
裸足で外へ出たから部屋の前で砂を落とすのも忘れずに。宵月は綺麗好きだから、部屋が汚かったら怒られてしまう。

折角宵月が帰ってきたんだ、怒られる時間だって惜しい。


そりゃあ勿論、彼女の真っ黒な瞳が俺を見てくれるなら怒った顔だって構わないけど。
でも笑った顔が見たいんだ。



どうしても、俺が気を失うときに見せてくれたあの表情が消えないんだ。


目を伏せ、心を圧し殺すようなあんな笑顔…







「っ、!あんな笑顔が見たいわけじゃない!!!!」







仮に関係を元に戻すことは出来なくても、あんな笑顔なんて…







「あんな…っ、寂しそうな笑顔が最後なんて俺はイヤだ!!!!!!」







どんなに強く抱き締めても感じない彼女の鼓動を、俺は認めたくないんだ。








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