「戦争、孤児…」

『無駄話は終わりだ。行くぞ』

「ま、待て…待てよ、宵月」

「宵月さん!行っちゃイヤだ!!」






俺に続くようにして、宵月を呼ぶきり丸はまるで母親に置いていかれる子どものように走り出した。

必死に、必死に手を伸ばして宵月の名前を何度も呼んでいる。







「守りたいなら、どうして学園を襲った…!」

『ただの私の我が儘だよ。恨んでくれて構わない』

「俺は…宵月の事…愛してる。まだ、好きなんだっ!恨むなんて出来るわけないだろ!」






彼女は泣き叫ぶきり丸を受け止め、頭を撫でる。
まるで自分の子どものように錯覚するほどに宵月の瞳からは慈愛の色が見えた。

俺もゆっくりと宵月に近づく。









『…お前たちは私のようになってくれるなよ』

「宵月…、?」

「宵月さん!」

《…強く生きろ》






花が咲く瞬間のように小さく笑って、いつの間にか後ろで膝をつき控えていた部下を連れ背を向けた。

泣いていたきり丸も唖然としている。


最後のは俺にしか聞こえない矢羽音。

頬を伝う何かに構ってる暇はなかった。
触れたくて、宵月の手を取ってあげたくて、伸ばしたそれはいつかの日のように逆に取られた。







「宵月、…」






彼女の細い指が俺の涙を拭う。
後ろに目をやれば呆れたようにも笑ってる宵月の部下たち。

あんなにも憎んでいたのに、まるで家族のようなその温かさにまた涙が流れる。


宵月は俺の頭を撫でて、涙を拭った反対側の手を振り上げた。







『兵助、ありがとう』







手刀を入れられたのだと気づいた瞬間に俺の視界は霞んでいた。
宵月の顔がうっすらと見える。

目の下に出来た傷から、炎に照らされた朱色の滴が流れて泣いているように見えた。


目元は伏せられていたから分からない。
でも口許が柔らかく弧を描いていたのは覚えてる。







『散』








そして聞こえる後輩たちの俺を呼ぶ声と、宵月が静かに叫ぶ声と遠ざかる足音。


俺はただ閉ざされていく視界に身を任せるしかなかった。








さいごに見るは朱色の露

(地面に朱が落ちた)




















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