体が動かない。 何故彼女が撃たれる? どうして。俺が確実に軌弾道の道上に居た筈なのに。
片膝を着いて腹部を押さえる彼女を見ている。
「どうなって…」
『ッ、きり丸…!』
「!」
「あ、宵月…さっ…血がっ…」
「伏せろ!!」
「え…?」
いつの間に居たのだろうか、元々大きな目をもっと見開き、彼女を見ていたきり丸に苦無が襲い掛かる。
それを俺が気付くより早く彼女が察知してきり丸に声をかけたが、近付く危機に彼は気づかない。
懐には苦無を落とせるような武器は使いきっていた。何かで軌道を少しでも逸らすことが出来ない。
こんな時に限って縺れる足。
やめろ、やめてくれ…
「やめろぉぉぉおおおおお!!!!!」 「ぅわああああ!!!」
そう叫んだきり丸の声に、金属同士がぶつかり合った様な鈍い音が響く。
「きり丸!」
「く、久々知先輩…」
「怪我は?!」
「い…いいえ、ありません…っ、でも!宵月さんが…!」
ポロポロと瞳から大粒の涙を流して指をさした先には相当量の血を脇腹から流している。
向こうで額に苦無が刺さったまま落ちたのは学園に入る前に倒した忍と同じ装束。
俺に続いてきり丸まで。 震えるきり丸を自分の背に隠しながらゆっくり立ち上がる彼女に視線を逸らせずにいた。
例え俺の時が偶然だとしても、きり丸の時は間違いなく彼女が庇った。
「お嬢」
『呉座か…』
「お迎えに、上がりました」
何も言えずに彼女を見ていると、音もなく老人が姿を表した。
呉座、先程彼女の部下が言っていた男だろうか。
俺はきり丸から受け取った棒手裏剣を両手に構え、現状を把握するために二人を観察した。
『かが里と誠は…』
「…此処に」
「宵月様っ!お腹から血がっ…!!」
『いい、気にするな』
かが里と誠と言う男も彼女の後ろに姿を表す。 かが里は彼女の怪我に気が付き心配そうに走り寄る。そして誠は俺に目を向けてる。
『…全ての準備が終わったか。あの子達の、方も…?』
「あぁ」
『なら、っ…行こうか』
「っ、待て!!」
体をふらつかせる彼女をかが里と誠が支え俺に背を向ける。 何故か炎は忍術学園の外を燃やしていた。
きり丸を庇うように立ったまま姿を消そうとした彼女たちに言葉を向ける。
「何処に行く!」
『始末、だ』
「どういう事、だ…何でっ、何で俺やきり丸を庇った!!!」
今の彼女、宵月の姿が昨日俺に別れを告げた姿と被った。 何故だと喚くしか出来ない。後ろで俺を呼ぶきり丸の声に反応してやることも出来ない程の恐怖が支配する。
学園を襲ったのは宵月達だ。 少し遠いところに倒れている三郎達を殺したのも宵月だ。
なのに何で、俺たちを庇ったのかがどうしても理解が出来ない。
「仮死の術も見破れぬか、小僧め」
『呉座』
「仮死の、術…っ?」
呉座と呼ばれた老人が、倒れる三郎たちを顎で指す。 いつでも対応できる体勢のままそっちを見ると、いつの間にか駆け寄ったきり丸が三郎を仰向けにして見ていた。
「針…」
「っ、まさか…!」
三郎に走り寄って針を抜く。 すると三郎は呼吸をし始めた。まさか、
俺は顔を上げ、未だに背を向けたままの宵月を見た。
「宵月…頼む答えてくれ。どうして、こんな事をしたんだ…」
『私には、守りたいものがあるんだ』
「守りたい、もの?」
振り向かないまま答えた宵月の言葉を、続きを諭すように繰り返す。
『1つは此処、忍術学園』
「もう、1つは…」
『私の、子ども達だ』
ゆっくりと顔だけを向けた宵月が儚く笑った。 子ども、たち?
宵月に子どもが居たなんて話は聞いたことがない。
『他の皆も生きてる。早く解いてやれ』
「こ、子どもって!子どもって…どういう事だ…?」
『…戦争孤児』
静かになった辺りに響いた言葉。 先輩たちの針を抜いていたきり丸も手を止めて宵月を見ていた。
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