彼女に正攻法はきかない。 実力が明らかに違うのは分かってる。 正直、正攻法じゃなくたって勝てはしないだろうけれど。
それでもやらなきゃいけない。
後輩を守らなくてはいけないんだ。
「宵月様ぁ〜」
「宵月、此方は終わったぞ」
『かが里に誠か』
「宵月様が言われたとーりに始末しましたよ〜」
上から降ってきた声に顔を上げると見たことがない男が二人立っていた。 目が大きく、女と間違えても仕方がない程の綺麗な顔をした男と、覆面をしていてよく見えないが目元が涼やかな黒髪の男が木から降り彼女の少し後ろに控えた。
自然と寸鉄を握っていた手の力が強くなる。
俺を突き刺す視線に体温が下がった。 理由は2つ。あの二人は、恐らく彼女の部下の三人のうちの二人。
そして、始末したという言葉。
「始末したって…どういう事だ」
「だぁれ?君」
「答えろ!!!」
「わぁー怒ってる怒ってる。んっとねぇ、髪の毛ボサボサした奴と、顔に傷のある奴!多分そこに転がってる奴と同じ制服だったよぉ」
にっこりと、この場に不釣り合いな可愛い笑みを浮かべて眈々と口を動かす。
恐らく六年ろ組の先輩方だ。 あんなに強い二人を一人で相手するなんて、あの小柄な身体のどこにそんな力があると言うのか。
「あと、そこの君とおんなじ制服の子二人。確か名前は竹谷と尾浜って言ってたかな?可哀想にねぇ、若いのにさ」
「…かが里、喋りすぎだ」
沸々と怒りが込み上げ俺はかが里と呼ばれる男に苦無を飛ばした。 それはそいつの顔を掠め木に刺さったがそいつは愉しげに顔を歪めて笑うだけ。 それでも狂気が辺りを包み、遠巻きから見ていた忍たまの誰かが小さく叫んだ。
これが忍たまとプロの違い。
『かが里、手を出すなよ』
「はぁーい」
『誠、呉座は』
「…呉座殿は作戦通りに教員を」
「誠さんの方は誰倒したのぉ?」
「立花仙蔵に潮江文次郎、それにそこの片割れだ」
「っ、雷蔵…」
先生方が来ない理由が分かった。 しかし呉座と言う男はどれ程の男なのだろうか。あの先生方を一人で押さえつけるなんて。
そしてそれを纏める彼女の力が計り知れない。 俺は彼女をここまで知らなかったのか、そうも思い知らされた。
『それなら今の内に第二段階へ移れ。呉座と言えど相当の負担がか…っ、』
「そうですねぇ、僕達には時間もないしぃー」
「…宵月」
『…、ここは私一人で十分だ。行け』
寸鉄を構えながら三人のやり取りを黙って見ていた俺は、一瞬だけ彼女の意識が反らされた瞬間を狙い地を蹴る。 彼女の気が逸れた理由なんて分からない。でもこの機会を逃す程俺はバカじゃない。 それに気付いた彼女が咄嗟に出した苦無に防がれ次の攻撃へと移る。
渾身の力を込めた回し蹴りを首に定める。気絶をさせられなくても当たれば多少の動きも鈍るはず。
さっきの二人はまだ後ろに控えたままだった。 間に合わない。
「…遅い」
「コイツでしょお?宵月様に生意気にも鍛練してもらってた奴ってぇー。君、何を教わってたの?」
「っがは…!!」
爪先が彼女の首に触れようとした瞬間、俺の体は誠と呼ばれた男によって吹き飛ばされた。 強すぎる衝撃にまともに受け身もとれず地面に倒れる。
『誠、かが里。手を出すなと言っておいた筈だ』
「だぁってー、宵月様が鍛練したって奴がどれくらい強いのか僕たちだって見たかったんですよー。ねぇ、誠さんっ?」
「…」
『 』
痛む体を起こしながら三人を見ていると矢羽音でやり取りをしているのか、かが里と誠と呼ばれる男は彼女の後ろに跪き一礼して姿を消した。
それを追うにも彼女をほったらかしにも出来ない。 第二段階とは何の事なのか、彼女に視線を向けると鉄糸を構えている。
鉄糸は彼女の一番の得意武器、そして彼女にのみ持つことが許された武器。
これが表すものはただ一つ。 相手が本気だと言うこと。
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