寒い時期故に太陽はまだ昇らない。
学園には霧のような靄が立ち込める。
『あぁ、でも一足遅かったな』
彼女は顔色を変えないまま、肩を竦めて足元に転がる三郎へ視線を落とした。
よく見れば少し離れたところに緑色の制服を着た生徒も横たわっている。
「っ、三郎!食満先輩!善法寺先輩っ!!」
「久々知君!危ないよ!」
ピクリとも反応しない三郎達に走り寄ろうとした瞬間、自分の名が呼ばれた。
喋っている雰囲気はいつもと違うものの、声で誰かは分かる。 俺より下の学年に編入した、年上のあの人。
体がいきなり突き飛ばされ、体制を整えようと身を捩ったとき、信じがたい光景が視界に入った。
「ぐぁっ…!!」
「タカ丸さん!!!」
俺が先程居た場所に入ったタカ丸さんが口から血を吐いて吹き飛ばされた。
タカ丸さんは地面に体を打ち付け、その勢いのまま転がり壁によってやっと止まる。
今、何が起きた。 まさか彼女がタカ丸さんを吹き飛ばすなんて。そんなの有り得ない。 編入し薬委員に入った彼を知ったのは彼女が卒業してからの出来事だった。でも、俺が嫉妬する勢いで仲良くなってた筈なのに。
音もなく地面に着地した彼女がタカ丸さんを見やりながら腰に手を当てた。
『タカ丸、お前のその勇気は買うが少し無謀じゃないか?』
「っ、宵月…!何故っ…!!!」
『何故?お前はまだ分からないのか?』
何の感情も読み取れない彼女がこっちを向く。 その手には俺と同じ寸鉄と鉄扇が握られている。
得意とする武器は鉄糸だが、どんな武器でも彼女は使い馴染んだ物かのように扱っていた。
どうしてそんなに沢山の武器が使えるのかと聞いたとき、女は力で男に勝てないからその場にあるどんな物でも使えないと。と言っていたのを思い出す。
「裏切ったのか…?」
『そうだな』
「何、で…宵月がここを襲う理由なんてないだろ!!」
『理由はあるさ。恨みがなくともそれが仕事なら仕方がない』
「しごと…?宵月はフリーの忍だろ!こんな依頼受けるわけがっ、!」
一歩前に出たら足元に苦無が刺さった。
よく見ればそれは血が付着している。 それも真新しい、赤と苦無の色のお陰で紫にも見えた。
『三郎のだよ』
「っ、ああああああ!!!!」
我を忘れて彼女に斬りかかる。 彼女なら六年生や三郎を上回る実力を持ってる。未だに聞こえる別の場所にはきっと此処には来ていない上級生が行ってるんだろう。
『兵助に教えてあげよう。忍術学園に入っている人間は私を含め四人だ。まぁ調子に乗ったあいつらが命令を無視していなければ、だが』
「そんなこと…敵の言うことなんか、信じられるか!!!」
鍛練以外で初めて彼女に武器を向け飛び掛かった。
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