気になることを聞いた。


それはさっき俺が殺した忍たちの一言。






「あいつは何をしているんだ!!」

「奴ほど此処を知っている人間はいないからと、手を出すなと言ったくせに!」

「まさか寝返ったのか…!?」






奴ほど此処を知っている人間はいない、とはどういう事か。
間者が紛れていれば必ず気付くはず。


確かに小松田さんのミスで敵国の人間を学園に招いたことがあるし、タソガレドキの奴等は何度となく侵入はしていた。
しかし今まで学園に縁のある忍たちと今目の前にしていた忍は全く違う。

気配を消し、寸鉄を構えて学園内に入る。



そこは見たこともない忍術学園の姿だった。






「ぅわああああ!!!」

「助けてっっ」

「早くこっちへ避難しろ!」






泣き喚く下級生にそれを守ろうと奮闘する上の学年の生徒たち。

転んだりしたのか泥が所々付いてはいるが怪我はなさそうだ。
しかしそんなに遠くない距離で刃物を交える音がする。油断は禁物だ。


外に居るプロの忍には動きが見えない。
恐らく戦いは三ヶ所。先生たちはどうしているんだ。







「嘘だ!!」

「…三郎次?」

「何で、何でっ…」






三郎次が三年生の三反田にしがみついて何かを言っている。
ほんの少し距離があるため耳をすませた。







「宵月さんが、忍術学園を襲うなんてっ!!」







その名前に思考が途切れた。

宵月、思い出すのは俺の愛しい人の顔。
彼女が、学園を?


三郎次は何を言ってるんだ。
もし仮にそれが彼女の姿だとしても中身は別人なはず。

三郎次はまだ二年生。
三郎と雷蔵の区別すらつかない。


恐らく彼女の姿を借りた何者かがこの学園を…






「花杜…宵月、っ!!」







近くで三郎の声が聞こえた。
聞いたこともない、切羽詰まったような声からは恨みとは違う感情が伺えたような気がする。

まるで別れを告げられたときに俺が出したような声。





『さよならだ、三郎』






確かに聞こえた、彼女の声。
聞き間違えるはずがない。

前に一度彼女に三郎が変装しても俺は引っ掛からなかった。
抑揚のない、それでも俺はその声が好きだった。高くも低くもない、安心するような高さの声が俺の名を呼ぶのを好きで好きで仕方がなかった。



その場に駆けつけた俺は息をすることを忘れる。

あの後ろ姿、艶やかな髪。
見間違えることはない。







「宵月…?」






半ば無意識に出た彼女の名前。
信じたくない、頼む。彼女がこんな事をするわけがないんだ。







『やっと来たか、兵助』







振り向いた彼女からは黒い雫が滴り落ちていた。
月夜に浮かぶ姿は彼女本人。なら、その滴り落ちる黒は誰のものだろうか。

緩やかに唇が弧を描き俺の名を呼ぶ。

その瞬間、僅かな願いは虚しく切り捨てられた。







黒の滴

(どうして、それすら言えなかった)




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