沈黙した空間に未だに降り続ける雨音のみが響き渡る。


私の頬を伝うのは何か分かってる。






「見守ることも、一つの勇気だと思うんだ」





頭を一回、くしゃりと雷蔵の手が撫でた。

浮かぶのは卒業の日に私の頭を撫でたあの人の笑顔と温もり。







「天の邪鬼だね、ほんと」

「あぁ、そうだな…」

「損な性格してるね」

「あぁっ…そう、だな…」

「でもそんな君を、ちゃんとあの人は見てたよ」






声が出なかった。

知ってるんだ、あの人がいつも私を気に掛けてくれていた事くらい。

あの人なりに私に歩み寄ろうとしてくれていた事くらい。



でも、私はそれを拒絶した。



付き合いたいなどと思ってはいなかった。

それでもこの気持ちは膨らむ一方で、どうしようもなかった。



あの人が卒業を間近にしたある日、二人は恋仲になった。

それを私は純粋に喜んで受け入れられた。


兵助も、あの人も私は好きだったから。






「強いね、三郎は」






あの二人を見ているだけで幸せだったんだ。

あの人が嬉しそうに笑うのも、照れたように視線をそらすのも全て兵助に向けられているものでも嬉しかった。

それを見て兵助が笑っているのも、友として例えようのない程に、嬉しかった。






「今日は凄い雨だね。何も聞こえないや」







好きだった、初めての恋だった。
でもそれは叶わなくても良かったんだ。

兵助と幸せになって欲しかった。



私はもう二度と見られない背中を思い出して、泣いた。
流石に声は上げてないが。
















「なぁ雷蔵」

「何だい?」

「あの人は本当に兵助を嫌いになったと思うか?」






雨が小降りになり、縁側に腰掛けた私は雷蔵に問い掛けた。

どんなに考えても、そこだけは納得ができない。それは雷蔵も同じだったのか、落ち込んだように顔を俯かせる。






「僕には分からない。でも例え気持ちが無くなろうと、宵月先輩が兵助を傷付けるような言葉は使わないと思うんだ」

「そこなんだよな」





一瞬沈黙が起きる。

するといきなり雷蔵は立ち上がって私の腕を引いた。






「三郎、今日の実習で調べよう」

「何、言って…」

「だって納得いかないじゃないか」





ただ一言。
それでも私を動かすには充分すぎる言葉。


私は無言で頷いた。



例え兵助が傷付くような結果だとしても、真実を知りたいんだ。

お前もそうだろう、兵助。






紺の雨音を遮るのは
(大丈夫だ、私達が居る)






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