「くそ…」






忍術学園をこんなに本気で走り回ったことなんか無いだろう。

それでもあの女は何処にも居なかった。



仕方なく私は兵助が居るであろう部屋へ走る。


襖は私が出ていったまま、開けっ放しにされていて、奥には未だに踞ったままの兵助。







「…兵助」

「悪いな三郎。探し回ってくれたんだろ」








呼吸が乱れているのを隠した筈なのに、兵助はそれをいとも簡単に見破った。
天然の癖にそう言うところだけは本当に鋭くて困る。






「俺は、甘え過ぎていたのかもしれないな」

「そんなことないだろう…」

「弱いから」

「っ、」





兵助は自分の事を言った筈なのに、何故か自分が言われたように感じて言葉につまる。








「三郎、ありがとな。用事、あったんだろ…何?」

「…今夜、五年は実習だ」

「分かった」

「なぁ兵助、先生には私から体調が悪いと伝えておいてやる。だから今夜は…」

「俺は行くよ」






踞っていた兵助がゆっくりと立ち上がった。
赤く濡れた瞳はさっきまで泣いていたと言っているのに、その眼差しは何も映してはいなかった。


思わず私は言葉を飲み込んだ。


兵助が実習に行くには危険すぎると判断して、最悪力ずくででもと思っていた。
でも何故か、今の兵助に私は勝てる気がしない。






「兵助に三郎、何して…え?」

「っ、勘右衛門…雷蔵に八左ヱ門…」

「どうしたの、三郎…って兵助!?」

「お、おいおい!どうしたんだ!?」






五年の仲良くしてる奴等が集まってきた。
多分中々戻ってこない私達を心配して迎えに着たんだろう。

兵助の様子に雷蔵を除いた全員が駆け寄る。






「三郎、何があったの?」

「…私から話すことじゃない」

「そっか。でも三郎、泣きそうだから」






優しい口調で諭すように話す雷蔵。

恐らく雷蔵には、粗方見透かされてると思う。






「宵月先輩にフラれた?!」

「声が大きいぞ、八左ヱ門!」

「…成る程ね」






八左ヱ門が溢した、と言うより叫んだお陰で雷蔵の疑問が一つだけ解決されたんだろう。

それでも普段優しい顔をしているはずの雷蔵は考えるように眉を寄せている。


きっとそれは誰もが考えている事だろう。






「何でだよ…そんなのって、ないだろ…」

「…兵助は、それでいいの?」






絶望した様に呟く八左ヱ門に、少し怒ったような勘右衛門。

そりゃそうだろう、どちらの反応も正しい。



この前来たときにはいつも通り馬鹿みたいに寄り添っていたんだから。
私達はそれをこの学園の誰よりも見てきたのだから。






「仕方無いんだ、俺が負担をかけたせいだと思う」

「お前がいつ宵月先輩に負担かけたって言うんだ?」

「宵月は、忍隊の頭なんだ。きっと忍たまの俺達が想像しているより大変なんだよ」






今にも泣き出しそうな、壊れそうな声で兵助が呟いた。

兵助の言い分も分かる。
利吉さんと違って1人で活動しているわけではないあの女は、想像の何倍も何十倍も大変なんだろう。


でも、





「あの人は、兵助が居るからやってこれたんじゃないのか」






思わず口走ってしまった。
正直今の兵助にこんなことを言っても何にもならないと分かってはいても、そう言わずにはいられなかった。








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