それ以来俺は馬鹿みたいに彼女にくっついて回った。 女ながらに男に混じり、忍者として才を伸ばしあの山田先生の息子・利吉さんをも凌ぐ力を持っている彼女に憧れた。
初めての出会いを果たしてから数年、彼女は六年生になり俺は三年生になる。
そんな月日が流れいつの間にか憧れも恋慕に変わっていた。
「宵月先輩!」
『ああ、兵助』
「すみません、お待たせしましたか」
『いや、今来た。行こうか』
俺のお願いで小袖を着てくれた彼女。
ぎゅっと心が鼓動を打つ。
前より彼女の僅かな表情の変化を気付けるようになった。
ほんのり目を細めたのは笑ってる証拠。
学園の門を潜って町へ出る。
もう六年生は卒業間近。
気持ちを伝えるには今日だ。
『兵助、あそこに行こう』
「え、あそこは…」
『食堂のおばちゃん一押しの店らしい』
彼女が指差したのは今人気の豆腐屋。
思わず口角が上がるけど急いで表情をただす。 今は豆腐何かに気を取られてる場合じゃないんだ。
そう思って先を歩く彼女の手を引くと、ゆっくり振り向いた。
『お前のために調べてみたんだ』
「…俺の、ため?」
『いつも色々私を連れていってくれるからな、お陰で休日を楽しく過ごさせてもらってる。その礼だ』
彼女はズルい。 そんな柔らかい笑顔で、雰囲気で言われたら乗るしかないじゃないか。
俺が彼女の手首を掴んでいた筈なのに、逆に掴み返される。
しかし食堂のおばちゃんのイチオシなだけあって、やっぱり美味しかった…!!
この柔らかさ、弾力にさっぱりした味。 これは…後で作り方を聞くしかない!
『兵助』
「…へ」
『付いてる』
豆腐に埋め尽くされる思考を止めるように彼女が俺を呼ぶ。 ゆっくり味わってるつもりだったのに、言葉を聞く限り豆腐が口元に付いてしまったらしい。
恥ずかしくなって、袖口で拭こうとした瞬間、彼女の腕をあげる姿があの時と重なった。
「宵月、せ…」
『ここ』
昔と、違うのはここから。
彼女の細い指が俺の唇に触れ、拭った豆腐を食べられる。
『美味しいか?』
「っ、はい。すいません、恥ずかしいですよね…」
『何言ってるんだ。豆腐関連の時の兵助の笑顔、私は好きだよ』
顔に身体中の体温が集まった。 絶対彼女にはバレてる。そう思って彼女を見れば既に視線は手元の豆腐に落とされてる。
「宵月先輩」
気付けば彼女の薄い唇に自分のを重ねてた。
黒々とした綺麗な瞳が大きく瞬きをしてほんのり頬を染めて初めて笑顔を見た。
『兵助』
「俺、宵月先輩が好きです…っ」
彼女が柔らかく笑った。 きっと、俺しか見たことがない表情で頷いてくれてる。
まだ、まだ俺は弱いけど… 俺は彼女を守れるようになる。
強くなる。
愛してる。
俺の、大切な人。
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