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 しとしとと雨が降っていた。にわか雨だろうと高を括っていたけれど、しばらく降り続いている。俺と西園さんはシャッターの降りた小売店の軒先で、とうとう無言になってしまった。天気の話も世間話もあらゆる引き出しが開けっ放しになっているが、中身はなにも残っていない。

 空気の読めない雨雲を睨み上げていると、隣で素っ頓狂な声がした。見れば、庇のビニールからぽたぽたと雫が落ちてきていた。雨漏りのようだ。俺はすぐに一歩左にずれて、西園さんのスペースを空けた。西園さんはお礼を言いつつ、俺に近寄る。気まずい雰囲気の中、こっそりと西園さんに目をやると、前髪に付いていた雫がちょうど彼女の頬に落ちたところだった。西園さんの瞳がわずかに動く。まるで西園さんが泣いているような錯覚に陥って、どきっとする。

 多分、いや、絶対に俺がそうする必要はなかった。けれども、反射的に、あるいは衝動的にその雨粒を拭っていた。ほんのちょっと触れた頬の手ざわりに、指から体温が上がった。

「な、なんしよっと!?」

 その直後、俺が「え」と言ったのと西園さんが「あ」と言ったのは同時だった。赤く染まった頬がやけにかわいく見えた俺は、ようやく恋を自覚した。





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