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「私に、思い出をください」

 そんな言葉どこで覚えたんだ。そう思えたのはほんの一瞬で、俺に身体を預けたマナがいやに柔らかくて、全ての思考がストップした。しばしの間、頼りない感触と甘やかな香りが俺の理性を握っていた。自我が戻ったときには腕の中にマナがいて、けれどもその表情は幸せというより切なげだった。ふっくらとした唇がこの世の何よりも気高く、可憐に感じた。

 「好きだ」そう言おうとして、寸でのところで飲み込んだ。目をつぶり、頭の中で繰り返すに止まる。

 好きだ、きみがすきだ。

 今この瞬間だけは、セブンスシスターズも御園尾コンツェルンも関係ない。俺だけのマナ――

 髪の毛に指を通すと、思っていたよりもずっと滑らかな感触がした。その一本一本までもがいとおしかった。言葉にすれば辛いだけだとわかっているのに、ひとりでに口が動く。

「君に会えてよかった」
「私もそう思います」

 海の近くなだけあって、風が強かった。夜風が俺の頬を打つ。この温もりを決して忘れない、と思った。





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