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 これが自転車のどこの部品でどういう役割を持っていたのか、私は知らない。そしてその一方で、私がこんなものを未練がましく取っていることを金城が知る由もない。

 人の記憶というものは儚く、覚束ない。それでも思い出を連想させる何かしらの事物があれば、その形ないものを心に刻むことができるらしい。私にとって、これだけがあの淡く脆かった恋との架け橋になっている。

 これはいつも私を諭してくれる。今ではお守りのようなものだ。新しい恋をする度に小物入れの中から取り出しては眺めたり、握ったりして心を落ち着けている。そうしているうちに、高校時代のみじめな思いがよみがえり、変に冷静になれるのだ。

「浮付いて期待することなかれ」

 私以外誰もいないワンルームの空気が振動して、声が聞こえる。私はそれを元の場所に戻してから、浴室へと向かった。テーブルの上の灯りが消え、開いたままのメール作成画面は真っ黒になる。ぼんやりと彼への返事を考えながらお湯の蛇口をひねるが、ありきたりでつまらない定型文しか思いつかない。化粧を落とそうと手のひらを顔に近付けると、鉄の匂いがした。そこでまた妙に冷めた気持ちになった。



捨てられないガラクタ

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150114
金城さん関係なかったですね。





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