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 別れの足音がする。

 すぐ後ろまで来ている。しかしこれが私に向かっているのか、はたまた他人に向かっているのか、こんな真っ暗闇では判断することもできない。

 彼との別れは本当に唐突に訪れる。暗いから一歩先の落とし穴に気が付けないのだ。そしてもし落ちたとしてもその先には再び彼がいる。


 彼は何度別れ話をしたら気が済むのだろう。


 私が毎度それを拒否すると知っていて言っているのではと疑う気持ちすら生まれてしまった。

「別れよう」

 私を悔い改めさせるための呪文とでも思っているのだろうか。私のことを好きだというくせに、同じ口で別れを請う。それがどんなに残酷なことか理解した上で。たちが悪い。別れを告げたその口ですぐに愛を囁き出す。どれが本音でどれが嘘なのか、私はどちらの言葉を信じたらいいのかーー彼の葛藤が分からない代わりに私のそれもまた彼は知らない。だんだんと彼の言い分を理解している私がいることにも。


 嗚呼、別れの足音がする。



グッバイ、ダーリン





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