「ツッキーはモテるから、…あ、変な意味じゃなくて」
「山口くんのこと好きな子もいると思うけど」
「まさか。いないよ、そんな子」
真剣な瞳を無視して笑い飛ばしたのには、ちゃんと理由がある。心構えがまだだったのだ。しかし、伝わらなかった。あるいは、わかった上の発言だったのかもしれない。彼女は俺よりもずっと度胸がある。
「いるよ、ここに」
唐突に時が止まった。俺と彼女しかいない、夕闇の教室。
「…冗談だよね、だってミョウジさんはツッキーが」
「山口くんのこと、好きになったらダメかな」
狩人のような目だ。つまりこの場合、獲物は俺ってこと。
「ねえ」
ダメなわけないじゃん。俺はツッキーみたいに特別背が高いわけでも、かっこいいわけでも、頭がきれるわけでもないけれど――知っていた、ミョウジさんの気持ちがいつのまにか傾いていたことには。だからこそ、俺から言おうと思ってたのに。
それをどう伝えたらいいのか、急には思いつかず、咄嗟に彼女の手を握った。
不意打ちで言うのはやめていただけますか
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