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 特にやることがないのは、いつものこと。しんと静まった私の部屋で、二人ベッドの上で過ごす、休日。

 各々小説を読んでいたら、一の頭がかくんと下がった。それを視界の端でとらえた私は小説にしおりを挟んでから閉じ、胸の横に手をついて身体を起こす。ベッドに腰掛けている一の右側に座り、文庫本を支える手を無理やり外して、自分の指と絡めさせた。人差し指で一の手の甲をさすれば、その表面の滑らかなこと。しかし、一はそれでも左手だけで本を持ち、私にかまわず読書を続けている。だから今度は親指以外の四本を握ってみた。骨ばった感触の男らしさに優越に似たものを抱く。つまり性別の差を認識することで、お互いがかけがえのない存在だと改めて感じるのだ。一は私にとって友達とは違う領域にいる無二の存在であり、彼にとっての私もそうでありたい。

 手を広げさせて、てのひらを指の腹を親指でぎゅ、ぎゅっと連続で押してみる。しばらくそれを続けていたのだけれど、飽きてしまったので、腕を組んで一に寄り掛かった。肩に頭をこつんとぶつけると、細い髪の毛が私の頬にかする。くすぐったい。腕を離して座り直し、一のつむじにてのひらを置く。そのまま手を後頭部に滑らせて、撫でる。一の髪の毛の表面はつるつるとしていて、私なんかよりもよっぽどキューティクルが整っていた。細くて、それでいて芯の通ったコシのある髪、それはまさに一自身のようだと思う。明るい色の髪をひとすくいして、それに口付けた。そのまま頭を抱いてみたが、一は姿勢を変えようともしない。一があまりにもされるがままだったので、とうとう私もむっとしてしまった。

 素早く一の首に腕を回し、前側にぶらさがるようにして、絡みついた。勢いをつけたせいで、ベッドのスプリングがきしむ。そこでようやく一と私の視線がぶつかった。彼の瞳に姿を映すことができて、私はこの時点でそれなりに満足。だのに一が表情を変えることなく本を脇に置いて、私の背中を支えてくれた。嬉しくって、身体と身体をぴたりとくっつける。一がついさっき私がしていたように頭の後ろを軽く撫でる。だんだんと鼓動が重なっていく。二つの心臓が融け合って一つになったような一体感が与えるのは、この上ない幸福。このまま時間が止まったら――ありきたりで不可能な願いを私と一は共有している。言葉にしなくても、どうしてかわかる。


「好き」

 頭のてっぺんから爪先、まつ毛やかさぶたに至るまで、全部。

 一がこくりと頷いた。それ以上は何もいらない。


 今この瞬間、どことも繋がらない密閉されたこの世界で、私と一は二人きりだ。だから強く願う。この先誰も、この楽園に入ってきませんように。




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