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 特別な日だからって散々っぱら言われて、あたしは正直うんざりしていた。

 姉のるりが言うには今日は全国の女子が頑張る日なんだそうだ。あたしに言わせてみればそんな流れは単なるお菓子業界のインボーだし、あげるよりも貰う方がいいんだけど、今年はなんかあげる側になっちゃったみたいで調子狂ってる。アイライナーを持つ手がいつもより震えたり、めったに失敗しないマスカラがまぶたについたりしたのがその証拠。慣れないことはするもんじゃないと思うけど、るりはそんなこと聞いちゃくれない。あたしよりほんの数分早く生まれてきたからって、姉さん気取りしないでよね。


 そんなわけでるりに早起きさせられた甲斐あって、いつもより五分くらい早く準備が終わったから、いつもみたくスカシに連絡しようってわけ。ただ今日はメールじゃなくて、電話。もちろんあたしの意思じゃなくって、るりの指示。

 ジュージュンな妹のあたしは命令通り今泉に電話して、道で会わなかったらいつものコンビニで待つように伝えた。あたしと今泉はどっちも自転車乗りでたまたま朝練のコースが一緒だから、たまーにコンビニで一緒に休憩することがある。たまにね、たまに。三回に一回くらい。

 電話を切って玄関に向かうと、るりが心配そうな顔でついてきた。いつもは見送りなんてしないくせに。

「ちゃんと渡すんだよ。可愛くないこと言わないでよね。」

 バカ言わないでよ、あたしはいつでもカワイイっつーの。そもそもなんでるりが緊張してんのよ。やめてよ、双子なんだから、あたしにまで移っちゃうじゃん!


   *


 いつものコンビニの雑誌コーナーでスカシ泉は立ち読みして、あたしのことを待ってた。道の上で会わなかった理由は分かってる。今日のあたしがすっごい遅かったからだ。あれもこれも全部!今日という日とるりのせいだ。今晩覚えときなよ!

 あたしはブリトーを、今泉は栄養補給ゼリーをいつものように買って駐車場で自転車の話で盛り上がる。はずだったけど、今日はあたしも今泉も無口だった。

 なにこの雰囲気、気持ち悪い!あたしは我慢できなくなって肩から提げたピンクのメッセンジャーバッグから頭を抜いて今泉に投げつけた。今泉は明らかに動揺して、落としそうになりながらもなんとかキャッチした。

「あげる。」

 スカシヤローはなんにも言わない。もうこの空気耐えらんない!

「言っとくけど、それ手作りだから!感謝してよね!」
「どうせほとんど姉ちゃんが作ったんだろ。」

 スカシはバッグを開けて中身を確認していた。あたしとるりが心を込めてラッピングしたピンクの箱が入ってるはず。どうよ、ピンク、カワイイっしょ?

「そんなこと言って嬉しいくせに。素直に喜べないわけ?つーか、お礼!人から物もらったらお礼でしょ!」

 それとも俊輔坊ちゃんは貰うのが当たり前だからお礼も言えないってわけ?今泉は一度あたしから視線を外して「あー」とか唸ってから、またこっちを見た。

「・・・ありがとう」

 あたしはすかさず立てかけてあった愛車を起こした。それはもう光の速さで。

「なにそれ、調子狂うからやめてよ!あたし先行く!じゃ!カバンはるりに返しといて!」

 別に逃げるわけじゃないけど!逃げたとかじゃなくてあたしはそろそろ行かなきゃって思っただけ。言っとくけど、捨て台詞じゃないから。

「おまえが言えっつたんだろ!」

 後ろから今泉のの声がしたから振り返ると、バッカみたい、顔赤くしてた。そんなわけであたしはいつもの調子を取り戻して渾身の力で叫んだってわけ。

「ハッピーバレンタイン!!」





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