始まりの予感

フードの中から現れたのは、


艶やかな漆黒の長い髪と、同じく漆黒の瞳を持った美少女だった。



「…………女の子?」
聞こえていた声は確かに少年の声だったはずだ。

「…っっ!俺は……男だ!!」

「へぇ…こんなキレイな男もいるんだ。」
ティキは少しがっかりした。

女だったらどストライクだったのに。



「ま、家出ならさっさと戻った方がいいぜ。ここはあんたみたいなぼっちゃんのいていいところじゃない。」

目を奪われるほどの美しい容姿には興味をひかれたが、男では夜のお供にもできまい。ティキの経験上、得体の知れない奴とは関わらないのが吉だ。


ぐいっ



「待て」

さっさとこの場を立ち去ろうとしたティキだったが、か細い腕に引き留められてそれはかなわなかった。

「お前ここの地理に詳しそうだな。案内しろ。」


「……………はい?」


捕まれた腕は未だはずされないまま。振りほどけそうで振りほどけないその手にティキはこれから厄介な目に会う予感を感じた。


「なんだ役所につき出されたいのか?」


睨み付ける瞳はまっすぐで強くて、女なら絶対に惚れていただろうと思った。


いや、本当なら振りほどけるはずの少年の腕を振りほどかせないのは、ティキの少年に対する興味だということを、このときティキ自身気付いていなかった。






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