黒髪の王女

国の中心にそびえ立つ王宮の、一番高い塔。
その一番高いところにある窓からは、美しい黒髪と、どこか物憂げな漆黒の瞳がのぞいていた。



「王女、」
白い髭と優しげな顔を持つ男の、その風貌と違わぬやわらかい声が部屋に響く。
国の頂点に立つその男の言葉を無視出来る者などこの国には存在しない。しかし王女と呼ばれたその人は、窓の外に目を向けたまま振り返ろうとはしなかった。

「隣国の王子からの求婚なら断ると伝えておきました。どうか俺のことは気にせず国事に専念してください。」
背を向けたままではあるがやっと口を開いた王女から発せられた言葉は、しかし王にとって喜ばしいものではなかった。

「王女、君の18の誕生日までもう時間がないんだよ?ラビ王子なら君のことを大切にしてくれるだろうし、昔からずっと仲が良かったじゃないか。」

ユウ王女はもうすぐ18の誕生日を迎える。
この国で18歳といえばもう立派な大人として扱われる歳で、特に代々この国の王女は、18の誕生日を迎えるまでに結婚相手を決めなければならないという厳格な決まりを課せられている。
「私だってかわいい娘を他の男のところへなんてやりたくないよ。だが国の決まりなんだ、わかってくれるね?」
これ以上王女から言葉を返してもえないと察した王は、そのれだけつぶやいて部屋を後にした。




「何が国の決まりだ。」

何が結婚だ。

自分は王女なんかじゃないっていうのに。


地から遠く離れたこの部屋はユウにとってはただの牢獄だった。

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