a sweet sweet day
読み手さんは地下鉄の迷子センターのお姉さん、アニメ寄りです。



「あ、迷子のお姉ちゃん!」
と、言いながら走って私のもとへ来たのは小さな女の子。綺麗な茶髪を頭の高い位置で結んだ活発な印象のその子には、見覚えがあります。
「こないだ迷子センターに来た子ですね! あと私は迷子のお姉ちゃんじゃなくて、迷子センターのお姉ちゃんですよ」
私は女の子と同じ目線になるようその場で膝をついて、あの人とおそろいの白い手袋を右手だけ外して女の子の頭を撫でました。
先日、迷子になっていた女の子です。私はそのときちょうどお昼休みで、お弁当を食べようと思っていたのですが、広い地下鉄のホームで一人ぼっちな女の子を見つけたら放ってはおけませんでした。それが仕事でもあるし、何より一人ぼっちの寂しさはお昼ごはんを食べ損ねたときの空腹感よりもずっとずっとつらいです。
「こないだはありがとう! 今日はちゃんと、お母さんといっしょだよ」
「それは良かったです!」
女の子の笑顔につられて、私も笑顔になりました。周りの人曰く、私はいつでもにこにこしてるそうですが。
「こんにちは。先日はお世話になりました」
見上げると、女の子の後ろに大人の人が立っていました。たぶんこの子のお母様です。
「お母さん、迷子のお姉ちゃんだよ!」
女の子はそう言って、お母様に抱きつきました。だから私は迷子のお姉ちゃんじゃなくて、迷子センターのお姉ちゃんです!
「まだ若いのに、えらいわね」
「いえ、そんな! 迷子を少しでも減らそうと努力しているのですがなかなかうまくいかなくて」
私は立ち上がって、手を振りながら否定しました。大人の人に褒められる経験もあまり無かったので恥ずかしいというか、照れてしまいました。
「目を離した私にも責任はありますし、なにより無事に子供に会えたのだから、あなたには感謝しているの」
お母様はふんわりと笑って言いました。大人の女性、ってこういう人を言うのでしょうか、すごく素敵な人です。物腰柔らかで、優しいです。
私はその人に少しの間、見惚れていました。
すると女の人はカバンから小さなかわいい袋を取り出して、
「お礼をしたいと思って、カップケーキを作ってきたのだけれど、受け取ってくださらない?」
「え、え!? そ、そんなそんな申し訳ないです」
透明の袋にはハートの模様があって、中には2つカップケーキが入っていました。すごくすごく美味しそうなのだけど、お客様から頂くわけにはいきません!
「甘いものはお嫌い?」
「いえ! むしろ大好きです!」
あっ、と口を覆ったときには遅くて、女の人はくすっと笑いながら私の手を取りました。そして袋をきゅ、と握らせて言いました。
「これからもお仕事、がんばってね」
お母様は女の子の手をひいて、それじゃあね、と残して歩いていきました。かっこいい、と思いました。私もあんなふうな大人っぽい、きれいな女の人になれたら、大好きなあの人は喜んでくれるでしょうか。

「それは何ですか?」
「うわっ」
背後から聞こえた声に振り返ると、ノボリさんが立っていました。何の気配も感じなかったのですが、ノボリさんはいったい何者ですか。
「カップケーキですか? まったく、クダリでもないのに業務中にお菓子など。没収させて頂きます」
「ちちち違います! これはお客様に頂いたんです! この前迷子になっていた女の子の、お母様に」
取り上げられそうになった袋を慌ててかばいながら、私は言いました。ノボリさんはお仕事のときすごく厳しいのがいけないと思います。
「女の子のお母様、すごく美人で優しくて、かっこよかったんです。私もあんなふうになりたいです」
私はまだまだ子供です。だから、少しでも、ノボリさんにつりあうような大人っぽいかっこいい女性になりたいです。いつもにこにこしてる、なんて言って下さるけれど、私だって悩んでたりするんですよ。
「あなたはあなたのままで、充分魅力的ですよ」
「えっ」
「カップケーキはあとで一緒に頂きましょうか。ちょうどもうすぐお昼休みでございます」
「あ、あの、私コーヒーは」
「もちろんあなたには紅茶をお淹れいたします」
お子様用にミルクたっぷりで、と言われた私は大人の余裕をぶちまけているノボリさんをきっとにらみました。
「やっぱりノボリさんにはあげません! クダリさんと一緒に食べます!」
早足で歩いてみましたが、やっぱりノボリさんに追いつかれてしまいました。




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企画サイト白線様へ提出します。
ノボリさん全然出て来てないとかそのへんはまあ目をつむっていただけると幸いです。
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