電話を勝手に切られたあと、嫌な予感がしたので急いである場所へ向かう。皮肉にもその予感はあたり、そこにいたのは
「いざ……や…?」
血を流して既に冷たくなっている自分が最も憎むべき相手の――――死体あった。
「………臨也?」
もう一度呟いて、体に触れる。当然だったがひやりとしていて、ああ本当に死んだんだなと静雄は思った。珍しく雪が積もっていたが、臨也の腹部あたりは少しだけ血で溶けたのかあまり積もってはいなかった、その代わりにそこの部分にはもはや赤、とはいえないどす黒い血で染まった雪があるだけだ。
「………………」
黙ったまま静雄は膝をつき、臨也の手の中にあったナイフを取る。きらきらと雪の光を反射するナイフを眺めながら、静雄はぼんやりと臨也とのあの会話を思い出していた。
『ねぇ、シズちゃんはさー、もしも俺が他の人に殺されたら悲しんでくれる?』『はぁ?何言ってんだよ、俺がお前を殺すんだぞ』
『それはこっちのセリフだよ。………だーかーらーもしもだってっ!』
『…さぁな、つーか想像つかねぇし』
『………俺も一応人間なんだけどね…。……まぁ、いいや!だったらさシズちゃん約束してよ』
『……約束?』
『そ、約束!約束!約束なんだからちゃあんと守ってよねー。…あのね、もしも俺が他の人に殺されたらね、俺の死体の前で笑ってくれない?……………悲しまないで、ただ俺の間抜けさを笑ってよ』
『……馬鹿みてぇ。つーかそんな約束しなくても笑ってやるよ、だってお前が死ぬんだから最高じゃねーか』
そこでようやく臨也は安心したように微笑んで静雄を抱きしめた。
『ありがと、シズちゃん』
「そうだ……」
いざやはしんだんだ。おれがころさなかったのはざんねんだけどしんだんだ。だったら―――――嬉しいはずだろ?
「なんで、なんで……なんで泣くんだ……?」
涙が静雄の頬を伝う、止めようとしても涙がとまる筈もなくただ驚いたように胸が締め付けれたように呼吸がうまくできない。血液がざわざわと耳元で煩く流れ、そしてなぜか切ない。静雄はそこではたと気付く、臨也が生きていれば決して認めなかった感情の名を。
「俺にどーしろっつんだよ……!」
強く拳を握ると鋭い痛みが走った、手の中を見ると先ほどのナイフが手の中にある。
「………………」
何を思ったのか静雄はその血に濡れたナイフを自分の首筋に当て、
「っつ………!!!!」
するりと一閃させた。
痛みが支配する中、静雄の体はゆっくりと倒れる。臨也の横にうつぶせに倒れ、薄れ行く意識の中で臨也に問いかけた。
(この……クソ臨也……)
(まってろよ……、あの世に行ったら手前ェに一番最初に会って……)
(そして、思いっきり殴ってやるかんな……)
(それから……、まぁ…………好きくらいは言ってやるよ)
それが幸せなのかはどうか静雄にはわからなかったが、どうしようもなく笑いが込み上げてきてそのまま眼を閉じた。