プルルル、プルルルル、プルルルルル―――――
もしもし?シズちゃん?うん、俺なんだけどさ。何で勢いよく切ろうとするのさ!酷いよ!?………うん、ごめんねー、そっち行けなくて。仕事でさ、仕事、多分今日はいけない、と思う、よ。ん?様子が変?………シズちゃんには言われたくないね。…はいはい、怒らないでって!俺が悪かった。え?やっぱ変?………なんでもないって!!なにシズちゃん俺のこと心配してるの?うれしー。
そんな顔真っ赤にして照れないでよ、俺さ、今すごく幸せなんだけど。……………え?何で分かるかって?…あのねぇ、それ恋人に言うセリフー?何でも分かるよ?だってシズちゃんの恋人なんだしさ、俺。…………………ね、シズちゃん、泣かないでね。
――プツッ、ツーツーツーツーツー
珍しく焦った声を出したシズちゃんを無視してそのまま俺は携帯の電源を切った。
「痛い…な……」
腹を見ると、ずいぶんと血が流れ出ていることに今更ながら気付いた。長くはもたないかなぁ……。そうぼんやり思いながらごろりと横になる。空を見上げると、どんよりとした雲からちらちらと何かが降ってきた。
「雪かぁ……、そういや外に出るときに随分寒かったけ………」
いまはそんな寒さなど感じないほどに、体が徐々に冷え切っているのが分かった。シズちゃん泣くかな?俺のこんな姿を見て、……泣く姿を見れないのが唯一の残念かな、なんてことを思いながら俺は眼を閉じた。
――――こんな最後になるんじゃないかなんて、心の中のどこかで思っていた。汚い仕事をしているんだからそれはあたりまえだ、なんて―――
………でも、何故か腑に落ちない
「死ぬなら、シズちゃんに殺されたかったな……」
ぽつりと呟いた言葉がでてきて愕然とした。眼から涙が出てくる。涙を流すだなんて久々だなぁ、なんて頭の何処かでぼんやりと考える。
「ははッ……、ははははッ……」
乾いた笑い声、涙なんてとっくの昔に無くしたものだと思っていた。後悔からの涙なのか、それとも、それとも?
「……好きだよ。シズちゃん」
好きだったよ、だからさ泣かないで。俺が死んでもいつものように笑って。お願い、お願いだから、さ。
眼を開くと雪はまだ降り続いていた。腹の痛みももうしない。ただ今は、酷く眠いだけだ。
「……おやすみ、シズちゃん」
ただ一人の想い人を名を言って俺はゆっくりと眠りについた。