※仁兵衛猫化パロ



目の前の机でころころと動き回る小さな生き物を、無涯は感情の読めない瞳でじっと眺めていた。

小さな生き物は名を仁兵衛といい、人の体に猫の耳と尻尾をもつ、手のひらにのるほどの大きさの不可思議な生物だ。


遠出にでていた小鳥がある日いきなり奉行所に連れ帰ってきた仁兵衛は警戒心というものがこれっぽっちも無く、率先して構いまくる小鳥や、口ではなにやら言いながらもよく構う火鉢、天間や恋川にすぐになついた。

しかしそんな仁兵衛が一番なついているのは、一番仁兵衛と関わりを持たなかった無涯だった。
親鳥に続く雛のように、気付けばいつも無涯の後ろをちょこちょことついていく。
無涯が部屋にこもれば扉の前でにいにいと数回鳴いた後恐る恐るといったように扉を開き、大抵座禅を組んでいる無涯の後ろにちょこんと座る。
お勤めの時はさすがに危ないので小鳥が抱き抱えているが、お勤めが終わればぴょんと腕から脱け出してすぐさま無涯の足元へすっ飛んでいく。
最早すりこみされたかのようななつきっぷりだった。

因みにこれに一番ショックをうけたのは小鳥で、僕が拾ってきたのに…と非常に落ち込んでいた。



「………。」


この日も、部屋で塵外刀の手入れをしていた無涯の後ろにいつの間にかおとなしく正座していた仁兵衛は、しばらくすると部屋のものに興味が移ったのか文机の上によじのぼり、大きな猫目を輝かせながらきょろきょろと部屋を見渡していた。

文机の上をちょろちょろと動き回るたびに、首につけられた金色の鈴がチリンチリンと軽い音をたてる。
ぴんと立てられた尻尾には火鉢の髪飾りとそろいの物がつけられており、動くたびに揺れる尻尾と共にふわふわと機嫌良くゆれている。

「……おい。」

手入れの手を止め、無涯は仁兵衛に小さく呼びかける。
耳をぴくりと反応させた仁兵衛は文机のはしからすっ飛んでくると、無涯の正面の位置にちょこりと正座した。
海のような瑠璃色の瞳はきらきらと無涯を上目で見つめており、無涯の言葉を今か今かと待っている。

「……………」

無涯はその長い指を伸ばすと、仁兵衛の額をつんとつついた。

「にゃうっ」

無涯にとっては些細な力でも、小さな仁兵衛にしてみれば強い力だ。
額にかけられた力に耐えきれず、小さく鳴き声をあげてころんと後ろに倒れてしまった。
一瞬目をぱちくりと驚いたように瞬かせた仁兵衛だったが、すぐにまた正座の姿勢をとり無涯の言葉を待つ。

無涯は再び指を伸ばすと、仁兵衛の額をつつく。
仁兵衛はまた小さく鳴いて後ろにころがる。

つつく。ころがる。つつく。ころがる。


「にゃ……にゃうう…」

数回そんなことをくり返せば仁兵衛の眉はなさけなく下がり、耳もぺたりとおれてしまう。なにをなさるのですかと言いたげな瞳には涙の膜がはり、今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。

「……………」

無涯は手を伸ばすと、そっと仁兵衛の頭を撫でた。後ろへころがりまくって乱れてしまった仁兵衛の髪をできるだけ優しく撫で付ける。

「……にゃ……!」

途端仁兵衛の顔がパアァッと輝き、柔らかそうな頬が赤く色づく。
ただでさえ隠しきれていない──否、隠すつもりなどこれっぽちもないのであろう嬉しさに尻尾はピーンと伸び、ぷるぷると僅かにふるえている。

「……………、」

無涯はフ、と微笑むと仁兵衛の頭を撫でつづけた。そのうちに仁兵衛の喉が鳴りはじめ、ゴロゴロゴロと甘えるような声が無涯の部屋に小さく響く。

ひどくやわらかな昼下がりの出来事だった。










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前に描いた落書き詰め合わせのイメージで。仁ちゃんって公式で猫耳はえたしね!




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