ぴょん、ぴょん、ぴょん


右へ左へと歩調にあわせて軽やかに揺れる尻尾のようなそれの先を、恋川は武骨な手のひらでひょいと掴んだ。
捕まれたそれはピンと張り、尻尾の持ち主は引っ張られたその痛みにふぎゃあと猫のような悲鳴をあげる。

「こ、恋川殿!何をなさるのですか!?」

くるりと振り返った仁兵衛は自身の束ねられた長い黒髪を掴む恋川を仰ぎ見ると、少しだけ憤慨したように形よい眉をつり上げた。大きな猫目の目尻も僅かに尖っている。
掴んだ黒髪をしげしげと眺めていた恋川はパッと手を離すと、悪ィ悪ィと軽い調子で謝る。

仁兵衛の髪の毛は大変手触りが良い。さらさらとした滑らかでいてハリのあるそれは、いつまでも触れていたくなる上物だ。そこらの女よりも美しい髪をしているんじゃないだろうか。

恋川の手のひらから解放された仁兵衛の髪は、また僅かに前を歩く彼の歩調にあわせてゆっくりと弾みはじめる。
ぴょん、ぴょんと自身より下にある仁兵衛の頭の後ろで楽しげに跳ねるそれは、見ているとどうもちょっかいをかけたくなるのだ。


むんず。ピンッ。


「ふぎゃあっ!? …恋川殿!!」

「カカ、悪ィ悪ィ。」


てくてくてくてく。むんず。ピンッ。


「ふぎゅっ!! …〜っ恋川殿ッッ!!」

「カカカ。」


てくてくてく…むんず。ピンッ。


「いい加減にしてくだされーー!!」

「カッカッカッカッ。」



江戸市中の見回り中に起こるこの微笑ましいやり取りは、後に江戸の名物となる。





end
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あの髪の毛可愛いです…ツインテにしたい。お春ちゃんとか女子組にいじられてますよ絶対。






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